いちわん

~ 楽在一碗中 ~
お茶の本

藤森照信読本

全ての家にお茶室を

藤森照信読本

建築の本です。藤森氏は建築史家にして建築家ということで、さまざまなユニークな建築を造っています。

藤森氏が設計した、表紙のように柱で持ち上げたお茶室(細川護煕氏のお茶室も)やワイヤーのお茶室がこの本には紹介されています。

私は実際に山梨県にある、清春芸術村で持ち上げたお茶室「徹」を拝見してきました。(残念ながら入れませんでした)

この本の中で、藤森氏は

「ぼくに茶室を頼んでくる人は、流儀や形式にこだわらない人ばかり。狭い空間でお茶を飲むのは好きだけど、作法は苦手という人は、日本中にいると思う。そういう潜在意識を浮き上がらせるためにも、最近は、住宅を頼まれると茶室をつくるようにしている。施主が、お茶を飲もうが飲むまいが、関係なく。」

と書かれていました。なんか、嬉しくなりました。

私もユニークなお茶室をお願いしてみたいです。

また藤森氏はずばり「藤森照信の茶室学―日本の極小空間の謎」という本をお書きになっており、いつか紹介したいです。

 

書籍情報

タイトル
藤森照信読本
著者
藤森照信
出版社
エーディーエーエディタトーキョー
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遠州の美と心 綺麗さびの茶

綺麗さびのお茶

遠州の美と心 綺麗さびの茶

お茶は裏千家を学んでいますが、お茶のセンス、茶道具の好みは遠州流も好きです。

侘びの中に華やかさがあり、センスも良く、素敵です。

この本は、遠州流の前家元の小堀宗慶氏と家元の小堀宗実氏が書かれたものです。

各季節の道具の取り合わせや懐石料理や道具など取り上げられ、遠州流好みの方にはもちろん、遠州流とはどのような流派か知りたい方にお薦めします。

林屋晴三氏、戸田鍾之助氏らとの道具の話も楽しいです。

私は、初風炉の取り合わせである、青井戸茶碗「廬山」とへぎ杉木地釣瓶水指にくらくらっとしました。

懐石料理と道具も素敵です。染付の盃台は遠州流らしさがよく表れています。

 

書籍情報

タイトル
遠州の美と心 綺麗さびの茶
著者
小堀宗慶,小堀宗実
出版社
小学館
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千羽鶴

ノーベル賞作家のお茶の小説

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今回は、ノーベル賞作家川端康成氏の「千羽鶴」です。

勝手な思い込みで、ノーベル賞作家ということで堅い小説と思っていました。

ところが、主人公は亡き父親の情人だった女性と関係を持って・・
という大胆な設定で驚きました。

舞台としてお茶室やお茶会、お茶道具として志野のお茶碗・水指、了入のお茶碗等が登場します。

川端康成氏はお茶人だったと聞いたことがあります。

調べましたら、1950年に加藤唐九郎氏らと「新日本茶道研究会」を結成したとありました。

 

書籍情報

タイトル
千羽鶴 (新潮文庫)
著者
川端康成
出版社
新潮社
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唐物茶碗(茶道具の世界1)

茶道具を体系的に学ぶ

唐物茶碗(茶道具の世界1)

この本は、淡交社50周年記念出版「茶道具の世界」の第一巻です。

茶道具を全般的に整理していて現在も手に入りやすいシリーズで、茶道具を体系的に学びたい方にお勧めします。

「唐物茶碗」は、天目・青磁・祥瑞といった中国の茶碗と、安南・宋胡録といったベトナム・タイの茶碗が取り上げられています。

天目茶碗は、静嘉動文庫で、国宝の曜変天目(稲葉天目)を拝見したことがあります。

本当に、ため息が出るほど綺麗でした。

書籍情報

タイトル
唐物茶碗 (茶道具の世界)
著者
矢部良明
出版社
淡交社
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茶室手づくりハンドブック

自宅に茶室を

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お茶会をするにも施設を借りてではなかなか実現できず、自宅に茶室があれば・・と多くの方が思っていらっしゃることでしょう。

お茶室は、四畳半を基本に花月に適した八畳、侘びた三畳が一般的な広さです。

ところが住宅の和室は六畳が多く、いざ茶室にしようとする改築が必要となり、はたと悩んでしまいます。

この本は、著者の岡本氏が自宅マンションの六畳の和室を茶室に改造したときの体験談が中心です。

岡本氏も四畳半の茶室に改造しようか検討しましたが、次の理由で六畳のままの茶室としました。

・四畳半・八畳の正方形から三畳台目の長方形へ変化しており、六畳の長方形もその延長概念でとらえることができる
・裏千家では六畳は大炉の間でややくつろいだ感じがし、居住空間にも通じる
・親しい仲間五人を呼んでも狭い感じがしない

これを読んで、「六畳でも茶室ができる」と茶室作りのハードルが一気に下がりました。

またマンションで問題となる炉や床のの問題も岡本氏はクリアしています。

特に炉は、床下が浅い分電気炉も難しいところ、炉壇(深さ118mm)、炉縁(高さ30mm)、五徳(高さ97mm)といった特注品を組み合わせて、炭を使えるようにしました。

床は、マンションの配管を避けた釣床とし、少し畳に入りこんだ置床とし、高さが足りない分は軸巻上で軸の長さを調整しています。

他にも水屋や待合、それに実際に茶会や茶事を行う場合の動線の工夫も書かれています。

これから茶室を作ろうとしている方、特に自宅の部屋が六畳なので茶室への改造を躊躇している方にお薦め致します。

一人でも多くの方がご自宅に茶室を作り、お茶に親しめる環境が実現できればと思います。

 

書籍情報

タイトル
茶室手づくりハンドブック
著者
岡本浩一.飯島照仁
出版社
淡交社
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茶道具の箱と箱書

バラエティあふれる茶道具の箱

茶道具の箱と箱書

この本は、茶道具の箱と箱書について書かれていまして、茶道具好きにぴったりです。

茶道具の本は数多くありますが、箱と箱書の本は珍しく、お勧め致します。

箱と箱書にこれほど凝るのは日本だけとのことです。

箱の木質、仕上げ、それに、宗和箱、紀州箱、雲州箱・・といった箱の種類の説明があり、勉強になります。

箱書についても、書付の方法、次第、宗匠・数寄者の箱書等が書かれています。

箱の蓋の向きについて、左右あるのでは、と以前から思っていたところ、この本に「文字が書いていない場合、木目の粗い方が右に来るように」と書かれていまして、疑問が氷解しました。

 

書籍情報

タイトル
茶道具の箱と箱書
著者
小田栄一
出版社
淡交社
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千家十職 手業の小宇宙

お茶のアルチザン-アーティストではなく

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三千家(表千家、裏千家、武者小路千家)の家元好みの道具を作る職家を「千家十職」と呼びます。家元出入りの職家は時代によって人数が増減して、ほぼ今の家が出揃うのが約250年前で、現在の形は、大正時代にデパートの展覧会で「千家十職」というネーミングができたというのが通説です。

本の内容は、職家一家ごとの歴史、作品、インタビューから構成されています。作品は当代作を中心にカラー写真で紹介していまして、その美しさに思わず見とれてしまいます。

十職現在は次のとおりで、どこの家も十代以上続いています。

永樂善五郎  十七代 土風炉・焼物師
大西清右衛門 十六代 釜師
奥村吉兵衛  十二代 表具師
黒田正玄   十三代 竹細工・柄杓師
駒澤利斎   十四代(故人) 指物師
土田友湖   十二代 袋師
中川浄益   十一代(故人) 金もの師
中村宗哲   十三代 塗師
飛来一閑   十六代 一閑張細工師
樂吉左衞門  十五代 茶碗師

本には職家が客として参加した、風炉と炉の正午の茶事の記事もあり、茶席での会話や道具組も興味深く読みました。

どの職家も、家の歴史と自分の仕事に対する真摯な姿勢を感じました。

例えば、黒田氏は四、五年寝かした竹を使い、飛来氏は十年寝かして狂いのない木地を選び、樂氏は曾祖父の土で茶碗を作ります。とても一、二年のスパンではない仕事の進め方に驚きます。

あるインタビューで、職家の一人が「職家はあくまでも職人で、芸術家ではない。独創的な道具でなく、用の美を持ち、お家元やお茶人の意向にそったものを作る」と読んだ記憶があります。

熊倉功夫氏は、「千家十職という集団は、世界中見渡しても全く類例のない、その存在そのものが奇蹟としかいいようのない独特の職人の組織です」と書いており、深く納得致しました。

 

書籍情報

タイトル
千家十職 手業の小宇宙
著者
出版社
世界文化社
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懐石料理とお茶の話 八代目八百善主人と語る

お茶人のベル・エポック

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茶人の江守奈比古氏(明治35(1902)~平成4(1992))と江戸料理の老舗・八百善の八代目主人、栗山善四郎氏(明治16(1883)~昭和43(1968))との懐石料理とお茶を中心とした対談で話が進みます。

栗山氏は八百善の主人であることから、お店や料理についての話題が多いかと思っていたところ、栗山氏も根っからのお茶人で、話はすぐに茶事・茶会や茶道具に移り、明治・大正・昭和の茶道界へと話題は変わります。

当時は激動の時代で、大名家や富裕家から美術品の売り立てが数多くあり、茶道具が大きく動きました。また数寄者が数多くいて、茶事・茶会で交流が深められた時代です。

そのような時代の数寄者が語るのですから、お茶好き、茶道具好きにはわくわくするようなエピソードやお茶に関する考え方が満載です。

例えば

1.大正時代に、茶道具商「近善商店」が乾山の槍梅の茶碗を競り落とした話。百円で一気に競り落として、あまりの緊張とほっとしたことで近善の主人は脳貧血になり、茶碗と箱を持ってその場にへなへなと座り込んでしまいました。後から、主人は(あの茶碗の素晴らしさに気がついたら競りは)「一万円になっただろう」と語るほどの名品だったそうです。

2.一回の茶会を催すことは、主人の美に対する態度というか、宇宙観、人生観の研究発表にも等しいもので、一度茶会に臨めば、主人の創作的力量も、人生観の深さも、美に対する執着の度合いも全部分かってしまう。

3.使っている茶道具が、昔大茶人であった千利休や小堀遠州などの愛玩の品であることがわかった時には、主人と客のほかに、利休や遠州も茶会に参加しているようで、大茶人を身近に感じることができる。

4.益田鈍翁氏の茶会で、本阿弥空中の水指の蓋を誤って連客が割ってしまい、益田紅艶氏が「空中のテッペンかけたかほととぎす」という句を即座に作り、場を和ませた。

この他にも、季節の懐石の献立、茶道具の取り合わせのポイントや例、贋作の話と興味が尽きません。

叶わぬことですが、この時代の数寄者の茶事に末席に参加し、含蓄のある会話を楽しみ、素晴らしい茶道具を手にとって拝見したかったと、心の底から思いました。

 

書籍情報

タイトル
懐石料理とお茶の話(上)(下)
著者
江守奈比古
出版社
中央公論新社
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料亭「吉兆」を一代で築き、日本料理と茶の湯に命を懸けた祖父・湯木貞一の背中を見て、孫の徳岡邦夫は何を学んだのか

孫から見た数寄者湯木貞一氏

料亭「吉兆」を一代で築き、日本料理と茶の湯に命を懸けた祖父・湯木貞一の背中を見て、孫の徳岡邦夫は何を学んだのか

著者は、京都吉兆嵐山店の三代目総料理長であり、吉兆創業者で大数寄者の湯木貞一氏の孫で、その孫から見た湯木氏のエピソードが中心の本です。

湯木氏は1930年(昭和5)に29歳で大阪西区に「御鯛茶處 吉兆」を開店させ、戦災から立ち直り、京都吉兆を始め各地にお店を作り、和食の名店としてゆるぎない地位を築きます。

また数寄者として、次々と茶道具の名品を手に入れ、1987年(昭和62)に湯木美術館を開館します。

印象深いのは、お茶に関することで、徳岡氏は裏千家業躰の濱本宗俊先生(唯一の女性業躰)に入門し、その稽古の厳しさと、湯木氏の米寿の茶事を手伝ったこと等が書かれています。

この米寿の茶事は、1989年(平成元)に行われ、掛物は佐竹本三十六歌仙「在原業平」や西本願寺本三十六人家集「石山切」、濃茶碗は大井戸「対馬」、薄茶碗に長次郎「きりぎりす」というため息が出るような取り合わせです。

茶道具を蒐集しても茶事や茶会を行わない方もいますが、湯木氏は茶事・茶会を数多く行い、しかもご自身が点前をしていらっしゃった茶人でした。

茶会の最高峰である、西の光悦会に5回、東の大師会に2回も釜を掛けた実績からもお茶人ぶりが窺えます。

巻末に、湯木氏と親交がありました大阪の谷松屋戸田商店の現店主である戸田博氏と徳田氏の対談があり、志野茶碗「広沢」を囲んでの湯木氏と茶道具の話が進み、こちらも道具好きはわくわくする内容です。

現在、湯木氏のコレクションは、大阪の湯木美術館で拝見することができ、選び抜かれた名品揃いということが分かります。

また、美術館の一階には、美術館に来た方が気軽に吉兆の味を楽しめるようにと、湯木氏が作りました和食のお店「茶寮 正月屋」があり、湯木美術館と併せてこちらもお薦め致します。

【関連サイト】

書籍情報

タイトル
料亭「吉兆」を一代で築き、日本料理と茶の湯に命を懸けた祖父・湯木貞一の背中を見て、孫の徳岡邦夫は何を学んだのか
著者
徳岡邦夫
出版社
淡交社
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茶の湯日和 うんちくに遊ぶ

センセイの月釜

茶の湯日和 うんちくに遊ぶ

著者の熊倉氏は、元林原美術館長、現静岡文化芸術大学学長を務めていらっしゃる日本文化史学者で、お茶の講演会やテレビによく登場されますので、ご存知の形も多いと思います。

この本はお茶に関する豆知識と茶者の体験談が中心です。

「うんちく」というと鼻に付くような場合もありますが、熊倉氏の人となりのよさで、そのような嫌味はなく、楽しく読めます。

例えば次のようなうんちくが書かれています。

・ご飯茶碗は、お茶を飲まないのに「茶碗」というのか。
・茶人杉木普斎の初鰹の逸話
・高橋掃庵が書いた40年前の手紙を茶席に掛けた小林逸翁の話
・明治の中ごろの歳暮茶会の話

熊倉氏の夢は、「この人に会いたい」という気持ちの客と「この人とともにお茶を飲みたい」という亭主が語り合え、気軽に集える月釜を掛けることとあります。

この月釜は、人が中心であるため、道具は季節で決まったものを使い、一年経てば同じ道具に出会うことで時の流れを感じることができます。

この話を読みまして、本当に「お茶」の心を持ったかただな、と感激しました。

熊倉氏はアカデミックな学者でお茶人という稀有な存在です。
皆さまにお薦め致します。

 

書籍情報

タイトル
茶の湯日和 うんちくに遊ぶ
著者
熊倉功夫
出版社
里文出版
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