いちわん

~ 楽在一碗中 ~
茶道具

茶杓「胡蝶」 海田曲巷作

才色兼備の茶杓

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今回紹介しますのは、海田曲巷作の茶杓「胡蝶」です。

作者の海田氏は茶杓師で、近年では茶籠を編んだり、書や焼きもの、漆とさまざまな工芸を手がけ、自分でも茶会を開催する現代の数寄者と思います。

「胡蝶」は、現代の茶杓としては小振りで、下り節が特徴の端正な茶杓ということが第一印象でした。

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各部に目を向けますと、

 

櫂先:兜巾形に近い丸形

樋:数樋、逆樋

節:下り節

腰形:直腰

撓め形:丸撓め

切止:二刀

竹:煤竹

筒:共筒、真削り

銘:「胡蝶」

 

で、次第は

 

仕覆:和更紗(ウルシ)

外箱

 

です。

 

茶杓の景色は、節の下が黒褐色の皮で節から上にむらむらと煤が立ち上がっています。
ずっと拝見したくなる美しい茶杓です。

作者の添え書きには

「煤竹 浅い樋を逆樋に使う下り節 胡蝶の夢が思い浮かぶ
切止め近くに皮残ル 利休さんの落曇の形に似る」

とあります。

確かに景色を見ていますと、儚く蝶が舞い立つ様に思えます。

また茶杓「落曇」は、畠山記念館で拝見したことがあります。下り節で「カイサキ幅ひろく、下スボマリ」でした。「落曇」という銘は、秀吉公から打曇大海茶入とともに徳有軒が拝領したことにより名付けられたようです。

「胡蝶」を手にしますと、大きさもバランスもちょうどよく、お茶もすくい易く、美と用を兼ね備えた素敵な茶杓です。

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粉引茶碗「弥栄」 武末日臣作

武末ブルー

今回紹介しますのは対馬の武末日臣氏作の粉引茶碗、銘「弥栄」です。

堂々とした井戸型で全体に白い釉薬が掛かり、その上に淡い水色の釉薬がとろりと流れています。

粉引に水色の釉薬が武末氏の特徴で、個人的に「武末ブルー」と呼んでいます。
弥栄

お茶碗について

弥栄~箱書き以前あるお茶会で武末さんのこの粉引茶碗を拝見して、武末ブルーにすっかり魅せられてしまい、やっと巡ってきた百貨店の個展というチャンスで手元に置くことができました。

個展で作家さんにお会いすると、作家の印象によって作品の評価が変わってしまうことがあり、その結果作品をどうしても手に入れたくなる場合とそうでない場合があります。

今回、武末氏の人柄と作品の素晴らしさで、作品を手元に置きたくなりました。

個展会場で武末氏とお話して、「ぜひ銘を・・」とお願いし、「弥栄」という銘をつけていただきました。神の社を前にしたような清々しさと潔さを感じ、また神職である武末氏の姿がイメージできてとても嬉しかったです。

 

作者・武末日臣氏について

武末氏は1955年に長崎県対馬に生まれました。上対馬町役場に就職しましたが、1989年に役場を辞めて高麗李朝陶磁研究のために渡韓し、井戸、三島等の古窯発掘調査を始めました。

以後毎年渡韓し調査研究を重ね、1994年に対馬大浦に窯を築いて本格的に作陶を開始し、1996年以降全国各地にて個展を開催しています。

神職の家に生まれた武末さんのもう一つの顔は、千年以上の歴史を持つ「対州国島大国魂神社」の神職で、1990年から務めています。

武末さんは口数が少ない真面目で木訥な人柄で、話をお聞きして作陶に対する真摯な思いに惹かれファンになりました。

ちなみに武末氏は「ほんものの日本人」(清野由美・文、藤森武・写真、日経BP社刊)という本に、陶芸家として樂家十五代樂吉左衞門氏と並んで紹介されています。

 

茶碗の見所

全体の姿は、ろくろ目も美しい井戸形をしていて、大きさも程良くできています。

粉引茶碗とは、白い粉を掛けたよう白い釉薬が特徴で、武末氏の茶碗は、さらに水色の釉薬がかかり一目で武末氏の作品と分かります。

また粉引茶碗には火間といって釉薬を掛け残して三日月のような景色を作る場合がありますが、このお茶碗は総釉です。

見込みに五つの目跡があり、少しの石ハゼ、口作りのほつれも見所です。高台はあまりこらずにあっさりとした作りです。

お湯を入れるとさっとシミが広がり、思わずほーっと声が出てしまいました。お茶を点てて行けば、景色が変わり、さらに育つ予感がして楽しみです。

このお茶碗は、涼しげな夏の取り合わせか、あるいは白を雪に見立てて冬の取り合わせもよいではと思います。

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