いちわん

~ 楽在一碗中 ~
展覧会

日本の美・京のみやび 永樂歴代と十七代永樂善五郎展(日本橋高島屋)

茶陶の美を一堂に

永樂善五郎展

日本橋高島屋にて、「日本の美・京のみやび 永樂歴代と十七代永樂善五郎展」を拝見して参りました。

当代の永樂氏の個展は何年かおきに開催されますが、永樂家歴代の作品を一堂に集めた展覧会はなかなかなく、貴重な機会です。

会場に入りますと、当代襲名前の作品から始まります。
パリで個展を行った大きい花入「金銀彩花入」や「金銀彩偏壺」は、デザインと色遣いからエジプトを連想させる現代アートのような作品でした。

続いて、永樂家歴代の作品が並びます。

永樂家の初代善五郎(宗禅)(-1558年)は、武野紹鴎の土風炉師として始まり、千宗旦との交流のあった四代善五郎(宗雲)(-1563年)の時代より千家茶道との交流を深め、代々千家の土風炉師を務めていました。それが十代善五郎(了全)(1770-1841年)、十一代善五郎(保全)(1795-1854年)より茶陶作りを始め、千家十職の一人として、当代十七代まで続いています。

歴代の作品で特に心に残りましたのは次のとおりです。

・覚々斎好 達磨堂釜風炉 ・・六代宗貞(-1653年)
・唐津蘆瀑写水指 ・・十代了全
・金襴手葵御紋茶碗 ・・十一代保全
・日之出鶴茶碗 ・・十一代保全
・秋草香炉 ・・妙全(十四代得全の妻)(1852-1927年)
・金砂子海松貝茶碗 ・・十六代即全 (1917-1998年)

どれも美しく、茶席の華やかさを演出してくれる茶道具です。

そして当代永楽氏の襲名後の作品が並び、歴代よりもさらにバリエーション豊かで、華やかな作品ばかりでなく伊羅保といった侘びた茶道具も作っています。

ここで特に心に残りましたのは作品は次のとおりです。

・金襴手波濤鶴茶碗 名「天外」
・而妙斎好 青交趾若松茶碗
・伊羅保茶碗
・交趾竹食籠

その中で驚きましたのが、表千家家元の初釜の濃茶席に使われているという干支に因んだ水指で、次のような作品が展示され、伝統的な茶道具というよりも、現代アートと言えるような自由自在な造形でした。

・瑠璃交趾子袋担水指・・砂金袋を小さな鼠が担いでいます
・交趾寅水指・・水指全体が虎の頭部です
・竹生島水指・・水指から兎の顔と耳が飛び出しています
・龍爪七宝水指・・宝珠と宝珠を掴んだ龍の手の水指です

この他にも、午、巳、猿、酉、戌を大胆にデザインした水指が並びました。

当代永樂氏の豊かな創作意欲が感じられ、さらにご子息の永樂陽一氏(1972年-)も作品を発表し始めており、永樂家のますますのご活躍が期待できる展覧会でした。

 

●展覧会情報

日本の美・京のみやび 永樂家歴代と十七代永樂善五郎展
日本橋高島屋(東京都中央区)
2016年3月2日~2016年3月14日
http://www.takashimaya.co.jp/

村上隆のスーパーフラット・コレクション -蕭白、魯山人からキーファーまで-(横浜美術館)

数寄者としての現代アーティスト

村上隆のスーパーフラット・コレクション

横浜美術館にて、「村上隆のスーパーフラット・コレクション -蕭白、魯山人からキーファーまで-」を拝見して参りました。
パンフレットを見ますと、現代アートが中心でお茶関連はほとんどないのではと思ってお伺いしたところ、良い意味で期待を大きく裏切られました。

入口にはまず戦闘機の胴体のようなキーファーの巨大な作品があり、見上げると巨大な縫いぐるみが展示され、個人のコレクションの常識を覆されるような驚きでした。

村上隆のスーパーフラット・コレクション

最初は「日本・用・美」と名付けられた古美術品の展示室です。解説には「村上氏のコレクションの中でも、質量において群を抜いているが、陶磁器の作品群です」、「日本美術の奇想の系譜に位置づけられる曾我蕭白(1730-1781年)や白隠埜鶴(1686-1769年)ら江戸中期の絵画や~日本日の淵源、日本人の美意識に向けられた村上隆の眼差しをたどります」とあり、お茶関連もあるのではと思わせます。

入口には「陶製瀬戸狛犬 北大路魯山人旧蔵」があり、入るとすぐに蕭白の「定家・寂蓮・西行図屏風」と白隠禅師の「いつみても達磨」が展示されています。

村上隆のスーパーフラット・コレクション

屏風は、定家と寂蓮が西行の旅立ちを眺めている図で、二人とも「旅とはご苦労様だな・・」というような表情をしており、まるで水墨が描いた漫画のようです。白隠の軸は、達磨図と「いつみても」という讃で、まるでポップアートのようです。

次は陶磁器で、縄文、弥生、素焼と年代順に並んでおり、茶陶の桃山まで続きます。桃山では次の茶碗が展示されていました。

村上隆のスーパーフラット・コレクション

・鼠志野茶碗 銘さざ波・・杉綾のような白土の模様がありました
・呼継ぎ 志野茶碗
・瀬戸黒茶碗
・黒織部茶碗・・白い注連縄のような文様です
・熊川茶碗 銘花雫・・綺麗な枇杷色です

焼きものの中で、素朴な平安時代後期の「木造女神像」に惹かれました。近・現代では、ヨーロッパのスリップウェアが並び、北大路人魯山人(1883-1959年)の次のような作品が続きます。

・志野茶碗・・紅色に白い檜垣文様が美しいです
・備前徳利
・志野さけのみ・・これも紅色が美しいぐい呑みです
・織部四方鉢・・パンフレットに掲載されていました
・染付け鯰向付
・日月椀・・焼きものだけでなく塗りものもあります

この後、荒川豊蔵の志野茶碗、川喜田半泥子の志野茶碗と続き、圧巻なのは仙がいのユーモラスな画賛、一休和尚「初祖菩提磨大師達」、白隠の三幅対といった茶掛となりそうな軸がずらりと並んでいました。

村上隆のスーパーフラット・コレクション

次の展示室は「村上隆の脳内宇宙」というタイトルで、床から吹き抜けの高い天井までびっしりコレクションが積みあがっています。手前にはシーサー、その向こうには人間大の作品、壁には陶磁器の小品が棚に入って並び、天井にはモビールがゆらゆらしていました。確かに人の頭の中は、このように混沌としているのではと思わせる部屋でした。

村上隆のスーパーフラット・コレクション

他の展示室では、ヘンリー・ダーガーといった現代絵画、天才アラーキーの写真、立体アートは日本の奈良美智、中国の真珠工場?を題材とした映像アートと多士済々な作品群で、共通点が見いだせないくらいバリエーション豊かです。

村上隆のスーパーフラット・コレクション

解説では村上氏は、「「芸術とは何か?」という疑問に対して、あまりにも愚直に付き合ってきた結果、あれもこれも手を出してきた」「体験、経験しないと理解できない~そういう生き方を必然的にしてしまった」とあります。それを実現してしまう、村上氏の情熱・執念は凄いものだと感心しました。

お茶の視点で見ますと、コレクションの茶道具と現代アートを取り合わせて、お茶事をしてみたら・・と想像しただけでわくわくします。数寄者の村上氏の誕生を心待ちにして、会場を後にしました。

●展覧会情報

村上隆のスーパーフラット・コレクション -蕭白、魯山人からキーファーまで-
横浜美術館(神奈川県横浜市)
2016年1月30日~2016年4月3日
http://yokohama.art.museum/index.html

釜のかたち PARTⅠ(大西清右衛門美術館)

自由闊達なかたち

大西清右衛門美術館「釜のかたち PARTⅠ」

大西清右衛門美術館にて「釜のかたち PARTⅠ」を拝見して参りました。

以前、もし茶釜を注文するとしたらどのような釜がよいか、と考えたことがあります。

まず炉用と風炉用があり、オーソドックスな形でも、真形、万代屋、織部筋、雲龍、富士形、車軸・・と多くのバリエーションがあり、何かテーマを設定しないと決まらないと思いました。

今回の展覧会は、「釜のかたち」に重点を置いており、改めてさまざまなかたちがあるなと感心しました。陶磁器や漆塗りと違い、形が作りにくい鉄であるにもかかわらず、釜は自由闊達なかたちが存在しています。

例えば、陶磁器で作ることが多いお茶碗は、樂、萩、唐津、高麗・・と産地は多いですが、形は井戸、筒、平・・と意外と種類は多くないです。

主な展示品は次のとおりです。

瓢ノ釜:二代大西浄清
霰富士釜:二代大西浄清・・富士山の形に沿って霰が押されています
車軸釜:天明 ・・車軸中央の心棒に似ています
透木釜:三代大西浄玄
半八角釜:大西定林
筒釜:十代大西浄雪
獅子頭釜:十代大西浄雪・・鐶付が獅子の頭
広口釜:辻与次郎
尻張釜:名越浄味
鶴首釜:奥平了保・・すっとのびあがるフォルムが鶴の立ち姿にたとえられます
箆被釜:十一代大西浄寿・・胴の下部がへこんだようなかたち
唐犬釜:七代大西浄玄・・犬の耳のような鐶付 が特徴です
束木釜:初代大西浄林・・木を束ねたようなかたち

また同じように鉄で作る燗鍋もさまざまなかたちがありました。燗鍋は炉や風炉といった大きさの制限がなく、大小いろいろです。

名前を聞くと形が思い浮かびます。

太鼓胴燗鍋:十代大西浄雪
鮑形燗鍋:西村道也
分銅形燗鍋:大西定林
富士形平燗鍋:十代大西浄雪
松地文瓢形燗鍋:十四代大西浄中
八角燗鍋:九代大西浄元

注文主はどのような趣向で、釜や燗鍋を取り合わせて茶事を催したのかな、と茶席での歓声とため息を楽しく想像できる展覧会でした。
 
 

●展覧会情報

釜のかたち PART I
大西清右衛門美術館(京都府中京区)
2015年9月5日~2015年12月23日
http://www.seiwemon-museum.com/

春に想う -梅・椿・桜・桃-(畠山記念館)

春や春

春に想う -梅・椿・桜・桃-

畠山記念館に「春に想う -梅・椿・桜・桃-」展を拝見して参りました。

今回は、春の花の意匠の茶道具を中心に展示しています。

前期(1/16-2/11)は梅と椿、後期(2/13-3/11)は桜と桃を主に取り上げ、展示からも季節の移り変わりが分かります。

展示室に入りますと華やかな雰囲気で、まだ寒い中でも春を感じました。心に残った主な作品は次のとおりです。


  万代屋宗安消息・・椿のお礼が書かれています
  梅・椿に鶯図・・十二ヶ月花鳥図の一つで鶯が愛らしいです

濃茶取り合わせ
  茶入・・薩摩文琳「雪の花」、銘のとおり黒い釉薬の中で白が浮かび上がっています
  茶碗・・伊羅保茶碗「松浦」
  茶杓・・小堀遠州作「一つ松」、おっとりの皮目が色変わりになっています
  水指・・備前火襷水指「玉柏」、江戸時代の「地錦抄附録」という本に「玉柏椿」が掲載されています

薄茶取り合わせ
  薄器・・十二支蒔絵棗
  茶碗・・黒樂茶碗「曙」一入作、朱釉が綺麗なお茶碗です
  堅手塩笥茶碗「春雲」

懐石道具、その他の道具でどれも春の花の意匠です
  色絵梅鶯文八角鉢
  結鉾香合・・尾形乾山作、梅の絵が描かれた丸い香合で、祇園の鉾に結いつけ吊した結鉾飾りに似ています
  紅地金雲雪持椿模様唐織
  夜桜蒔絵四半硯箱
  祥瑞松竹梅文六角汁次

また当日は、「特製和菓子でお茶を愉しむ!」の日で、両国・越後屋若狭の春らしい桃色の主菓子とお茶を美味しくいただきました。
  
 

●展覧会情報

春に想う -梅・椿・桜・桃-
畠山記念館(東京都港区)
2016年1月16日~2016年3月13日
http://www.ebara.co.jp/csr/hatakeyama/index.html

野村得庵展 没後70年 ある近代数寄者の軌跡(野村美術館)

好みの変遷

野村得庵展 没後70年 ある近代数寄者の軌跡

野村美術館にて「野村得庵展 没後70年 ある近代数寄者の軌跡」を拝見して参りました。

この美術展は野村得庵の初期の蒐集品や茶会の取り合わせが展示されており、得庵の好みが藪内流から小堀遠州・松平不昧へと移っていくさまを知ることができました。

初期の蒐集品では御本立鶴茶碗が見事です。徳川家光が鶴の絵を描いて遠州が発注した本歌で、焼き上がりが美しいです。不昧の雲州蔵帳にも記載されており、得庵の後の遠州・不昧好みに繋がります。

藪内流の籔内竹陰作 天然曲形竹花入 銘蟠竜も展示されていました。

「数寄者たちとの交流」では、住友春翠からの沢庵宗彭筆夢語添状についての書状、高橋箒庵共筒茶杓 銘芦葉、益田鈍翁が命銘した熊川茶碗 銘霊雲とあり、数々の数寄者と親しく交流していたことが分かります。

またここには、大正8年(1919年)に数寄者同士で分け合った、佐竹本三十六歌仙 紀友則が展示されていました。およそ百年近くを経て、住友春翠(泉屋博古館)と二人だけ所有者が変わないようです。

茶会の取り合わせでは、昭和2年(1927年)11月の「佐理卿筋切通切披露茶会」と昭和4年(1929年)4月の「御大典奉祝茶会」が展示されていました。

披露茶会では藪内竹心茶杓 銘わびさするを用いていたところ、奉祝茶会では遠州茶杓 銘神風(展示は銘日吉)、書院飾りと、好みが籔内流から遠州・不昧へと移っていくことが分かります。

その他にノンコウのお茶碗と茶入に惹かれました。

樂三代道入作 赤樂茶碗 銘若草・・ノンコウ七種の一つです。和歌山の旧家に伝来されていて、表千家七代家元如心斎宗左が見いだして命銘しました。

種村肩衝・・大振りの茶入で雲州松平家に得庵が懇望して手に入れた際、畠山即翁との確執がエピソードとして伝えられています。

 

●展覧会情報

没後70年 野村得庵展 -ある近代数寄者の軌跡-
野村美術館(京都市左京区)
2015年9月5日~2015年12月6日
http://www.nomura-museum.or.jp/

琳派400年記念 光悦ふり 光悦名碗と様式の展開(樂美術館)

時間を超えた光悦と吉左衞門氏の邂逅

琳派400年記念 光悦ふり 光悦名碗と様式の展開

樂美術館にて「琳派400年記念 光悦ふり 光悦名碗と様式の展開」を拝見して参りました。

樂家当代である十五代樂吉左衞門氏の本阿弥光悦への思い入れの強さが分かる展覧会で、拝見しているこちらもわくわくしてきました。

ロビーの花は吉左衞門氏が入れるとのことで、お伺いした折には、シミ竹の花入に椿とやや赤みがかった照葉が入れられていました。

一階の展示室に入ると、正面中央に光悦の「雨雲」が展示されていました。

これは三井記念美術館から・・と思ったところ、樂家六代左入の「雨雲」写黒樂茶碗でした。

「雨雲」は何回か拝見したことがあり、切り落とした口作り、丸みを帯びた胴、釉薬の縮れ具合までそっくりでした。

今回の展示テーマである「光悦ふり」は「光悦らしさ」や「光悦っぷり」とでも言うのでしょうか、展示には次のように解説されていました。

「光悦ふり」は、光悦の写しとは異なるもので、次のような特色を持つ茶碗のことである。

1.口辺の端反りと流れるような曲線
  「雨雲」、「時雨」、「村雲」

2.胴部、腰部の丸くおおらかに張り出す姿と誇張
  「紙屋」、「何似生」

3.腰底部にめり込むようにつけられた小さな高台
  「紙屋」、「立峯」、「乙御前」

4.口部を放りはなつ鋭い篦あと
  「雨雲」、「時雨」、「村雲」

 

一階の展示室では、「光悦ふり」のお茶碗が並んでいました。主なお茶碗は次のとおりです。

六代左入 赤樂茶碗「桃里」・・正面が窯割れしており金継ぎしていました

久田宗全 赤樂茶碗「除夜」・・母は宗旦の娘で、宗全は利休のひ孫にあたります

九代了入 黒樂茶碗・・七里写しで黒に白いヌケがあり、箱に了入自らが「光悦形」と記しています

十五代吉左衞門 黒樂茶碗「秋菊」・・陶淵明の「秋菊有佳色」から名付けられました

十五代吉左衞門 赤樂茶碗「花仙」・・吉左衞門氏が一番好きだという光悦の「乙御前」にイメージが重なります

 

二階に上がりますと、吉左衞門氏、川喜多半泥子ら、そしていよいよ光悦の登場です。主なお茶碗は次のとおりです。

仁阿弥道八 飴釉樂茶碗「紙屋」写・・光悦の「紙屋」を綺麗に写しています

十五代吉左衞門 黒樂茶碗「噴壑(ふんがく)」・・光悦形でエネルギーが吹き上がるような力強さに溢れています

川喜多半泥子 志野茶碗「あつ氷」・・白茶碗で光悦「冠雪」に似ています

川喜多半泥子 赤樂大茶碗「閑く恋慕」・・大きな光悦「乙御前」のようです

本阿弥光悦 飴釉樂茶碗「立峯」、白樂茶碗「冠雪」、黒樂茶碗「東」、黒樂茶碗「村雲」、赤樂茶碗「文億」・・どれも自由闊達な光悦のお茶碗です

三代道入 黒樂茶碗「撫牛」・・「光悦ふり」の特色はなく、厚い釉薬がかかっており、明るくてモダンです

樂代は、光悦ぶりのお茶碗を作っています。

ところが、光悦と直接親交があった樂道入は光悦写しを作っていないようで興味深いです。

解説には次のようにありました。

様式・形ではなく、作陶の精神を光悦から学んだことが、道入の「光悦ふり」である

展示を拝見して、光悦→半泥子→吉左衞門氏の流れを感じました。

次のように解説されていました。

 「半泥子も当代吉左衞門も、その作陶の根底には光悦が窺えますが、それは光悦形の模倣ではありません。

  それぞれの作家の中に自然と現れた光悦の趣き、光悦の自由な作陶の精神であると言えるでしょう」

四百年の時を経て、光悦と吉左衞門氏の出会いを拝見した気が致します。

 

●展覧会情報

琳派400年記念 光悦ふり 光悦名碗と様式の展開
樂美術館(京都市上京区)
2015年9月5日~2015年12月23日
http://www.raku-yaki.or.jp/

三井伝世の至宝(三井記念美術館)

三井名品の同窓会

三井伝世の至宝(三井記念美術館)

三井記念美術館にて、「三井伝世の至宝」展を拝見して参りました。
今回は現在も三井家が所蔵している名品に加え、現在は三井から離れ、他の美術館等の所蔵となっている名品・優品も併せて展示されています。

最初に訪れた第一室は展覧会の顔であり、今回は古銅龍耳花入、北野肩衝、鸞天目、三好粉引らが迎えてくれました。
名品に次ぐ名品揃いで、とても全部書ききれず、抜粋に抜粋を重ねて報告致します。

唐物肩衝茶入 北野肩衝:大ぶりで肩の線がくっきりとしており、釉薬の流れが美しいです。

粉引茶碗 三好粉引:肌は侘びていて、釉の掛け残しが絶妙です。

赤樂茶碗 銘鵺:意外と大きく手持ち感がよさそうで、お茶のためにお茶碗だと思いました。

釘彫伊羅保茶碗 銘秋の山:狙ったものかどうかべべら口が美しいです。現在は湯木美術館蔵。

色絵鱗波文茶碗:仁清作で、なまこ釉の掛け流しと鱗文のバランスが見事です。現在は北村美術館所蔵。

虚空蔵菩薩像:気高く慈愛に満ちたお姿に思わず頭が下がり、また救われる気がします。現在は東京国立博物館所蔵。

熊野御幸記:藤原定家が熊野詣でする折に書き記した日記で、清書ではなく走り書きのメモのようです。くちゃくちゃっと書いたり訂正した箇所もあり、定家を身近に感じることができ、新鮮でした。
「定家様は、美しいだけでなく早く書くための書法である」と読んだことがあります。

志野茶碗 銘卯花墻:如庵写しの茶室に展示されていました。同じ志野茶碗でも端正な広沢と違い、背が高くゆがみがあります。ゆっくりと薄茶をいただいてみたいです。

色紙:三色紙と呼ばれる、継色紙、寸松庵色紙、升色紙が並んで展示しており、驚きました。

刀剣・能面:最後の展示室では、お茶の展覧会ではあまり拝見しない、刀剣と能面が展示されていました。どちらも静かな迫力がありました。

雪松図屏風:最後は正月に向けて縁起の良い、円山応挙作の雪松図屏風です。和紙の地を活かした白がまぶしく、風通しの良い絵だと感じました。

展示されている名品だけでも充分と思うところ、さらに図録を拝見しますと、この名品、あの名品も三井が所蔵している・していたのだということが分かり、芸術・文化の大コレクターである三井家の凄さを再認識しました。

三井伝世の至宝(三井記念美術館)

●展覧会情報

三井伝世の至宝
三井記念美術館(東京都中央区)
2015年11月14日~2015年1月23日
http://www.mitsui-museum.jp/index.html




杉本博司 今昔三部作 趣味と芸術-味占郷(千葉市美術館)

写真は真を写すものか-現代の数寄者

千葉市美術館にて杉本博司展を拝見して参りました。
この展覧会は「杉本博司 今昔三部作」と「杉本博司 趣味と芸術-味占郷」の二部構成です。
 
 

今昔三部作

三部作とは、杉本氏の代表作というべき三つの写真シリーズ「海景」、「劇場」、「ジオラマ」のことです。
 
 
「海景」
 
最初の展示室に入りますと「海景」の約120cm×150cmの大きな写真が5枚展示されています。
海岸はなく、波立つ海と雲のない空が広がります。どちらもくっきりとせずぼやかしており、モノクロームの不思議な景色です。
展示室は暗く、スポットライトの当たった作品が床に反射し、作品に吸い込まれそうです。

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「劇場」
 
次の展示室は「劇場」です。これは様々な劇場のスクリーンに映画を映し、それを撮影したものです。長時間露光したため、スクリーンは真っ白で周りは薄暗く写っています。オペラハウスのような趣の有る劇場もあります。
この展示室も薄暗く、写真にスポットライトが当たっており、劇場に入ってスクリーンを見ているようです。

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「ジオラマ」
 
三部作の最後は「ジオラマ」で、一見すると荒野や原生林と動物の巨大なプリントです。
ところがよく見ますと、動物たちのポーズや配置(空を飛ぶ鳥も)が絶妙であり、木々は筆で描いたような箇所があります。
どのように撮影したのか不思議な作品で、首をかしげながら拝見していました。

ハイエナ-ジャッカル-ハゲタカ

ハイエナ-ジャッカル-ハゲタカ


 
オリンピック国立公園 熱帯雨林

オリンピック国立公園 熱帯雨林


 
 
ここまで杉本氏の写真を拝見しまして、「真」を写すから写真なのではと思っていたところ、そうでないのではと考え始めました。
 
 

趣味と芸術-味占郷

こちらは杉本氏が、雑誌の連載で「味占郷」という仮想の和食店を開き、毎回ゲストを招待して、食事や器や設えを楽しんでもらうという企画から生まれたものです。
その時の、床飾りと器を中心に展示していました。
 

華厳滝図(杉本博司作)

華厳滝図(杉本博司作)


 
器は粉引、乾山、ルーシー・リーと多彩で、器だけでも一見の価値があります。
さらに、床飾りは杉本氏の作品を含む、古今東西の事物を取合せていまして、どれもあっと驚き、おっと感心し、なるほどと納得し、最後は素晴らしいと賞賛する取合せばかりでした。
幾つか写真で紹介します。
 
女神像

女神像

月下紅白梅図(杉本博司作)

月下紅白梅図(杉本博司作)

古銅 大升 / 泰山木:花(須田悦弘作)

古銅 大升 / 泰山木:花(須田悦弘作)

味占郷連載の様子

味占郷連載の様子


 
 

杉本氏は過去の展覧会でも、お茶席の床飾りを展示したこともあるほど、お茶にも造詣が深く、お茶道具を用いていなくても、不思議なほどどの取合せもお茶がありました。このままお茶事が始められそうです。
 
 
杉本氏は、茶席に仏教美術を持ち込んだ益田鈍翁のような、発想・センス・実行力があり、現代の数寄者であると深く納得致しました。
また著作「アートの起源」には「茶道さかえて茶人なし。そのような事態に陥らないためにも、私は広く数寄者を求めて、日本を彷徨い出ようと思っている。」とあり、今後の一層の活躍に期待致します。
 
 
参考文献(美術手帖以外はいずれも杉本博司著)
苔のむすまで・・新潮社
アートの起源・・新潮社
美術手帖 2014年7月号(杉本博司特集)・・美術出版社
・歴史の歴史・・新素材研究所
 
 

●展覧会情報

杉本博司 今昔三部作 趣味と芸術-味占郷
千葉市美術館(千葉県千葉市)
2015年10月28日~2015年12月23日
http://www.ccma-net.jp/




日本のやきもの展(石洞美術館)

日本のやきものを辿って

石洞美術館「日本のやきもの展」

石洞美術館にて、「日本のやきもの展」を拝見して参りました。
 
石洞美術館は、金属加工会社の創業者・社長であった佐藤千壽氏が2005年に設立したもので、佐藤氏のコレクションを中心にした所蔵品で構成されています。「石洞(せきどう)」は佐藤氏の雅号です。
 
美術館の建物は隣接する金属加工会社と共に煉瓦タイル貼りの六角形というユニークな形をしており、展示室は一階と二階、さらに一階から二階へ続くスロープに作品が展示されています。
 
石洞美術館
 
今回のテーマは「日本のやきもの」で、縄文時代から現代までの日本で作られたやきものが並び、およそ五千年の日本のやきものの歴史が一望できます。
 
展示は縄文時代から始まります。土器は素朴な土味で、五千年前とは思えないほどしっかりとデザインしています。水煙土器は、水が湧き出すようなモチーフで力強いです。
 
それが弥生土器になりますと、装飾がほとんどなくなり滑らかでつるりとした器になります。祭器から実用化してより多く作るようにするためでは、と想像が膨らみます。
 
12世紀以降の器になりますと、もうお茶で使われるようになり、山茶碗 銘「渓聲」のように銘がつけられ、愛でられていたことが分かります。
 
その後からは、備前の火襷、志野の向付、黒織部茶碗、染付吹墨月兎文皿、色絵伊勢物語図皿・・とお馴染みのやきものが並び、現代まで続きます。
 
現代作家では宮本憲吉、河合寛次郎、北大路魯山人、川喜田半泥子・・と豪華なラインアップです。
 
また、他の展覧会ではなかなか拝見できないコンプラ瓶(明治時代に醤油等を輸出するのに使用した陶器製の瓶)や輪トチン(やきものが窯にくっつかないように乗せる陶器のリング)も展示されていました。
 
石洞美術館は他にも茶の湯釜、漆器、ガンダーラ仏像、スペイン陶器等のコレクションも所蔵しているとのことで、今後の展覧会にも期待できます。
 
 
石洞美術館「日本のやきもの展」

●展覧会情報

日本のやきもの展
石洞美術館(東京都足立区)
2015年9月5日~2015年12月20日
http://sekido-museum.jp/index.html
 




桃山茶陶と「織部好み」展(畠山記念館)

畠山即翁の織部

桃山茶陶と織部好み展

畠山記念館にて「古田織部没後四百年記念 桃山茶陶と「織部好み」」展を拝見して参りました。
今年は古田織部没後400年ということで、複数の織部展が開催されています。

展示室に入りまして見渡しますと、伊賀花入 銘「からたち」、志野水指 銘「古岸」、割高台茶碗とずらりと名品が並びます。
順々に拝見しまして、織部が直接携わった道具は、織部所持の割高台茶碗のみではと気がつきました。他は織部の懐石道具はあるものの、織部の茶杓や書状もありません。畠山即翁であれば手に入れるチャンスはあるはずで、利休や遠州と比べると即翁はあまり織部を好まなかったのではと想像しました。

特に心に残った作品は次のとおりです。

伊賀花入 銘「からたち」
何度拝見しても力強さに一瞬たじろぎます。後ろに回ると鐶付の穴の跡があることに気がつき、よくこのような重い花入を掛けたものだと感心しました。

割高台茶碗
「からたち」に負けないようなお茶碗で、濃茶をいただいてみたくなります。

志野水指 銘「古岸」
これもまた堂々とした水指で、「からたち」や割高台茶碗に釣り合う風格があり、志野の長石釉がまぶしいくらいです。

織部手付向付、織部切り落とし四方形手鉢
懐石道具といえば畠山ということで、数多く並ぶ懐石道具の中で、織部の向付と手鉢に惹かれました。他にも黄瀬戸の向付や鼠志野の蓮文平鉢が素敵でした。

利休や遠州に加えて、織部が活躍したおかげで茶道具が楽しく華やかなものになったと、織部所縁の道具を拝見して改めて思いました。
そして「そうだろう、そうだろう」と満足そうにつぶやく織部の笑顔が浮かびました。

 

●展覧会情報

古田織部没後四百年記念 桃山茶陶と「織部好み」
畠山記念館(東京都港区)
2015年10月3日~2015年12月13日
http://www.ebara.co.jp/csr/hatakeyama/index.html