いちわん

~ 楽在一碗中 ~
展覧会

村上隆 個展「円相」(ギャラリーペロタン)

現代の禅画

村上隆 個展「円相」(ギャラリーペロタン)

六本木ギャラリーペロタンで、村上隆個展「円相」を拝見して参りました。
円相は、「真如、仏性、法性、実相など、文字や言語で表現し尽くせない絶対的で円満なる真理の悟りそのものを敢えて表現する方法の一つ」とあり、お茶席で拝見することもあります。

ギャラリーに入りますと、二つの部屋があり、十三の円相が並んでいました。
村上氏の円相は、ドクロや花のイラスト、黒や金の無地にスプレーで描いています。三幅対のような金・銀・黒の円相もあり、黒字に赤・赤字に黒の円相といったインパクトのある作品が並びます。

村上隆 個展「円相」(ギャラリーペロタン)

作品の背景はギャラリーの資料を引用します。

「近年、村上隆は禅宗の偉大な人物たちを描いてきました。禅の創始者である達磨大師。後の後継者となる師の達磨に、僧侶の恵可捧げた手を描いた恵可断ぴ図、そして、欲、憎しみ、惑いを克服することで悟りに達し、前世のカルマの遺物を破壊する500の仏の弟子である羅漢を描いた全長100メートルの最新作の五百羅漢図。村上は2011年の東日本大震災と津波を受けてこの五百羅漢図を描き、また震災は村上の制作の方向性を根底から変えることになりました。

「円相」は彼の作品で静かに継続する精神的活動から生まれる、村上隆にとって、また別の悟りを表現しています。伝統的に滑らかに熟練した筆遣いで描かれる円相において、心変わりは許されません。村上は円相を彼のユニークなやり方で、彼の作品の象徴であるお花とドクロを重ねた上にスプレーを使って表現します。円相は日本文化へのオマージュであり、複雑な芸術的および精神的歩みを経て、より自由なミニマリスト的実践へ回帰することなのです。」

村上隆 個展「円相」(ギャラリーペロタン)

最初は戸惑いましたが、拝見していくうちに、これもまた禅画であると納得していました。
五百羅漢図も拝見が楽しみです。

 

●展覧会情報

村上隆 個展「円相」
ギャラリーペロタン(東京都港区)
2015年10月31日~2015年11月21日
https://www.perrotin.com/




根津青山の至宝展(根津美術館)

最期まで茶人としての矜持を

 根津青山の至宝展(根津美術館)

根津美術館にて「根津青山の至宝」展を拝見して参りました。

今回は、美術館の礎となった数寄者である初代根津嘉一郎(1860-1940)が蒐集した名品揃いの展覧会で、通常は季節の取り合わせを展示している二階も使用しての大規模なものです。

内容は、根津美術館の実力を示すような豪華なラインナップで到底全部を紹介しきれず、特に心に残りました作品を挙げます。
(展示の中で茶会の取り合わせがあり、タイトルを< >で表します)

◆第一部◆
初期のコレクションは、書画と青磁が多くを占めています。ここで惹かれましたのは次の二点です。
・青磁浮牡丹文瓶 龍泉窯
  すっきりとした青磁の花入です
・鶉図 伝李安忠筆
  国宝の愛らしい鶉の図で、軍配形の表装が珍しいです

<夕陽山水図披露の茶会 1924/11/23>
軸に夕陽山水図を用いての茶会です。
茶入に中興名物 瀬戸正木手茶入「正木」、茶碗に伊羅保茶碗「淀屋」を取り合わせた秋らしい風情です。
中立の折りに松平不昧旧蔵の雲州銅鑼を鳴らし、参加者は「山寺の晩鐘聴くような」との感想を漏らし、銅鑼の音を想像しながら拝見しました。

◆第二部◆
ここでは国宝の那智瀧図が見事です。茶室ではなかなか掛けきらないような大掛軸で、胡粉で描いた瀧が見事です。

<瓜虫図披露の茶会 1930/6/13>
軸に瓜虫図、金襴手獅子鈕香炉、羅浮山盆石、蒔絵硯箱を取り合わせた夜話茶会です。
灯火がゆらめいて「さながら東山時代の書院に来たかのよう」との感想で、皆がため息をつく様子が想像できました。

◆第三部◆
嘉一郎をめぐる道具ということで、ここでは膳所光悦に惹かれました。
膳所光悦は、小堀遠州が徳川家光の御成に際して本阿弥光悦に作らせた二つの茶碗です。二碗とも形は筒と似ており、枇杷色で萩風のお茶碗をお出しして、白土と鉄釉のお茶碗を控えとしました。二碗が揃うのは五島美術館の光悦展以来かと思います。

◆第四部◆
名品選で、これまで以上の名品揃いでこの中で特に惹かれましたのは次のとおりです。
・鼠志野茶碗 美濃
・雨漏茶碗 蓑虫
・芦屋梅松文真形霰釜
・伊賀耳付花入 寿老人
・唐物肩衝茶入 松屋
・青井戸茶碗 柴田
・交趾大亀香合
・玉子手茶碗 小倉
この中で、松屋肩衝は王者の風格で、珠光・利休・織部・遠州の四つの仕覆が添えられています。
柴田井戸は美しく、日本一の青井戸茶碗だと思います。

この他にも、次の茶会の取り合わせが展示されていました。
<雲州銅鑼を聞く茶会>
<昭和北野大茶会>
<永久決別の歳暮茶事>

「永久決別の歳暮茶事」は、1939年12月23日から27日に開催されたもので、体調が悪い中、政財界の名士三十数名を迎えて茶事を行い、その約一週間後の1940年1月4日に嘉一郎は亡くなりました。
最期まで茶事を行った嘉一郎が持つ、茶人の矜持に深く感じ入りました。

  
  

●展覧会情報

根津青山の至宝
根津美術館(東京都港区)
2015年9月19日~2015年11月3日
http://www.nezu-muse.or.jp/




利休を超えた織部とは(湯島天満宮宝物館)

デザイン言語としてのオリベ

利休を超えた織部とは

湯島天満宮宝物館にて「利休を超えた織部とは」展を拝見して参りました。
湯島天満宮は学問の神様と呼ばれる菅原道真公を祀った神社で、会場の宝物館は境内にあります。
一階に受付とミュージアムショップがあり、また神社の御神輿が展示されており、展示室は地下に降ります。

古田織部(1543-1615)は、千利休の弟子で、小堀遠州や本阿弥光悦らの師にあたる大名茶人です。
会場に入りますとずらりと織部の茶道具が並びます。主な展示を説明します。

[プロローグ 織部の書]
織部の消息や織部の画賛の軸が並びます。消息は筆跡が太く細くリズミカルに書かれている印象を受けました。

[第一章 織部好の焼物]
ここから織部の世界に入ります。まず織部好みの茶入、背が高く織部釉と林の絵が描かれた織部林文肩衝茶入 銘「朝霧」から始まりです。
続いて織部が好んだという、瀬戸、備前、信楽、唐津茶入が続きます。前押で矢印のような文様のある瀬戸肩衝茶入 銘「しま瓜」に惹かれました。
黒織部、織部黒茶碗が並び、水指へ続きます。織部好の水指をこれだけまとまって拝見するのは初めてで、縄文土偶を彷彿とさせる美濃伊賀耳付水指もありました。
炉開でおなじみの織部香合も幾つか展示されていました。

[第二章 デザイナー織部]
この展示では織部自作の竹尺八花入 銘「韮山」から始まり、デザイナーとしての織部の多才さが分かります。
織部がデザインしたものは
花入、茶入、薄器、茶杓、釜、風呂、炭道具(火箸、灰匙、底取)、柄杓、棚、懐石道具・・
ととどまる所を知らず、お茶のあらゆるものに織部のデザインが生きていることに驚きました。

[第三章 書院の茶の湯の発展]
織部は利休に侘び茶を習い、それとは別に大名茶である書院の茶の湯を発展させました。
利休と異なり、織部の茶事は、小間の数寄屋で懐石と濃茶を行い、動座して書院で薄茶を点てるといった、侘び茶と書院の茶を組み合わせた新しいスタイルでした。
これは現在でも武家茶道である遠州流にも引き継がれています。

[第四章 会席具の集大成]
向付、鉢、徳利、ぐい呑・・とお茶にあまり縁のない方にも親しみのある、グリーンの織部釉がかけられた会席道具が並びます。
特に向付や鉢は、懐石道具の展覧会がありましたら必ずといっていいほど展示されるほど人気があります。
またユニークなものとしては、青織部の煙管、耳付振出、楓図雀瓦、それに灰釉南蛮人燭台がありました。

[第五章 織部に影響を与えた人々]
ここでは織部に大きな影響を与えた、織田信長、豊臣秀吉、徳川家康の書状等が展示されていました。

[第六章 織部茶会再現]
織部六十一歳から晩年の七十二歳までの茶会の道具組を拝見することができました。

数多くの織部好の茶道具を拝見して、お茶の世界で織部ほど有名なデザイナーはいないのではないかと気がつきました。
利休好や遠州好もありますが、どちらも特徴を知らないとなかなか分かりません。
ところが織部は、お茶をあまりご存知ない方もグリーンの釉薬が掛かり、鉄釉の絵が描かれていますと「オリベ」と思う方が多いと思います。
家庭の食器や居酒屋さんのお皿といった身近なところにも「オリベ」はあります。
これだけ普及していますと、まるで初期のマッキントッシュの「スノーホワイト」といったデザイン言語のようで、織部デザインの偉大さを改めて認識しました。

 

●展覧会情報

利休を超えた織部とは
湯島天満宮宝物殿(東京都文京区)
2015年8月8日~2015年9月20日
http://www.yushimatenjin.or.jp/pc/index.htm




涼づくし(畠山記念館)

夏の取り合せを学ぶ

畠山記念館

畠山記念館にて、「平成27年夏季展 涼づくし」展を拝見して参りました。
畠山記念館らしく懐石も含めた、夏の取合せを味わい、そして勉強することができました。

主な作品を説明します。

【濃茶の取合せ】
備前茶入「午枕」(ひるまくら)は、肩衝でごろっとしたお茶入で、午寝の枕という銘に納得できます。
粉引茶碗「放れ駒」は、大ぶりで平茶碗に近い形です。
金で継いでありまして、人を乗せずに走り回って、ぶつかって欠けてしまったのではと想像します。

小堀遠州作の茶杓「海士小舟」(あまのおぶね)と鎌倉彫芦葉達磨香合がペアで展示されていました。
なぜかと思ったところ、芦葉には達磨大師がインドから中国へ赴く際に、一片の芦の葉に乗って水上を渡ったという伝説があり、達磨大師を海士の小舟で迎えに行った景色が思い浮かびます。

【薄茶の取合せ】
すっきりとした阿蘭陀白水指と絵瀬戸割高台筒茶碗 元贇に惹かれました。
元贇焼は、中国明代末期の人、陳元贇が尾張名古屋で作成した陶器で、瀬戸の土を取り寄せ、呉須を使って安南写しを試みたもので、なかなか拝見できない珍しいお茶碗だと思います。
「筒茶碗」と聞きますと、冬向けと思ってしまいますが、このお茶碗は青味がかった白い釉薬がかかり、茶碗の腰あたりに水色の釉薬で魚の絵が描かれており、涼しげです。

懐石道具では、青磁一閑人酒呑がユーモラスでした。
一閑人というと井戸を覗き混んでいる姿を思い浮かべますが、これはお酒に酔って立ち上がって踊っているような楽しいポーズでした。

軸は、狩野常信作の滝図が、滝の周りを薄墨で描き、水しぶきが涼しげです。
また刺繍で滝を描いた「滝文様刺繍裂」も展示されており、華やかでした。
一行書では、大徳寺185世住持である玉舟宗璠筆の「檻前山青水緑」が掛けられており、これは「窓から外を見ると、山は青く水は緑なり」という自然で当たり前の風景をたとえにし、当たり前のことを当たり前に行じることが非常に大事という教えを説いています。

また今回は特別展示として、染付牡丹唐草耳付壺、染付唐草文水注、染付唐草文大皿が拝見できました。
祥瑞と違い、藍色がにじんだ様子が素朴な印象を受けました。

夏季展 涼づくし(畠山記念館)

●展覧会情報

夏季展 涼づくし
畠山記念館(東京都港区)
2015年8月1日~2015年9月13日
http://www.ebara.co.jp/csr/hatakeyama/index.html




藤田美術館の至宝 国宝 曜変天目茶碗と日本の美(サントリー美術館)

輝く星々のようなコレクション

藤田美術館の至宝 国宝 天目茶碗と日本の美

 

サントリー美術館で開催されています「藤田美術館の至宝 国宝 曜変天目茶碗と日本の美」展を拝見して参りました。

藤田傳三郎氏(1841-1912年)は、長州(山口県)萩の出身で、幕末の志士とは袂を別れて実業家の道を選び、軍靴を皮切りとした軍の用達業を始め、土木請負業、鉱山業、現在の東洋紡、南海電気電鉄、関西電力等を興し、財を成しました。

そして、明治の廃仏毀釈や西洋文化の取り込みによって日本の美術品が海外に流出することを食い止めようと、美術品を集め始めたのがコレクションのきっかけとなりました。
そのコレクションは、傳三郎氏と長男の平太郎氏と次男の徳次郎氏により蒐集されました。

その蒐集内容は驚くべきもので、仏像、日本画、工芸品、典籍、茶道具・・と広範囲に及びます。
傳三郎親子三人が蒐集した美術品は、昭和29年(1954年)に設立された藤田美術館に収められました。
散逸したものもあるようですが、それでも収蔵品2111点、うち国宝9点、重要文化財51点を所蔵しています。

藤田美術館は、大阪城近くの藤田邸の跡地にあり、蔵を展示室にして春と秋に展覧会を開いています。
敷地内には茶室もあり、お茶会に使われることもあります。

今回の展覧会は、藤田美術館の所蔵品から厳選されたもので、国宝9点全て・重要文化財30点(展示替えあり)と贅沢な展示内容です。

第一章 傳三郎と廃仏毀釈
展示室に入り、まず快慶作の地蔵菩薩立像に目を奪われます。
保存状態が大変よく、載金を施した袈裟の文様も色鮮やかで、鎌倉時代でなく近代に作られたような印象を受けます。
お姿は美しく、思わず見とれてしまいました。
もう一つ惹かれましたのが、廃仏毀釈で廃寺となった永久寺真言堂に伝来した国宝の両部大経感得図で、空間の広がりを感じる素晴らしい作品です。

第二章 国風文化へのまなざし
国宝の玄奘三蔵絵が、地蔵菩薩像のように保存状態がよく、色鮮やかです。
美しいだけでなく、絵に加えてストーリー性があり、楽しめました。

第三章 傳三郎と数寄文化
茶掛でおなじみの、大燈国師や夢窓国師、一休禅師、利休居士の軸が並びます。
さらに王義之が書いた蘭亭序の拓本という珍しいものも拝見できます。

第四章 茶道具収集への情熱
藤田美術館の数あるコレクションの中で、ひときわ輝いているのは、
今回展示の目玉のひとつである、国宝の曜変天目茶碗です。
お茶碗をのぞき込むと、宇宙に星と銀河が浮かんでいるようで、本当に美しいです。

曜変天目茶碗は世界に三碗しかなく、いずれも日本の国宝です。
三碗とは、藤田美術館、静嘉堂文庫(稲葉天目)、大徳寺龍光院にあり、外側に曜変があるのは藤田美術館のお茶碗だけです。

田村文琳茶入は、傳三郎氏が交趾大亀香合と取り合わせたいと言っていた名品で、姿や釉薬とも美しい一品です。
御所丸黒刷毛茶碗 銘「夕陽」(せきよう)も見事で、お茶の緑が映えそうで、手にとってみたくなりました。

黒楽茶碗「太郎」「次郎」、大井戸茶碗「蓬莱」、乾山の銹絵絵替角皿・・とまだまだ紹介した茶道具はありますが、最後に交趾大亀香合を紹介します。
これは傳三郎氏が亡くなる十日ほど前病床で臥せっているときに、美術商から落札したとの連絡があり、傳三郎氏が「そうかぁ」と答えたというエピソードがあります。
残念ながら傳三郎氏は、田村文琳茶入と交趾大亀香合を取合せてのお茶会は実現しませんでした。

第五章 天下の趣味人
ここでは竹内栖鳳の大獅子絵や、能の面と衣装もあり、傳三郎氏のコレクションの幅広さを知ることができます。

サントリー美術館にぎっしりと展示されていましたが、振り返ってみると、藤田美術館で拝見した茶道具の名品が展示されていないものもあり、今回の展覧会を拝見した方でも、藤田美術館へ伺う楽しみは尽きないと言えます。

 

●展覧会情報

藤田美術館の至宝 国宝 曜変天目茶碗と日本の美
サントリー美術館(東京都港区)
2015年8月5日~2015年9月27日
http://www.suntory.co.jp/sma/
 

●関連記事

名品の入口
(藤田美術館2013年春「茶道具いろは」展レビュー)
 
冴えわたる四季の取合せ
(藤田美術館2015年春「組むたのしみ」展レビュー)
 
輝ける宇宙 究極の美
(静嘉堂文庫美術館2013年春「曜変・油滴天目茶道具名品展」レビュー)




安食ひろ 求美図夢茶会(柿傳ギャラリー)

ピカソの茶会のような

求美図夢茶会
新宿の柿傳にて、陶芸家の安食ひろ(1948~)、安食潤(1982~)親子の「求美図夢(キュビズム)茶会」に行って参りました。

場所は残月亭写しの柿傳の茶室で、亭主は安食ひろ氏、半東は柿傳ギャラリーの店主である安田尚史氏が勤めました。

ひろ氏は、ユニークな造形をされる陶芸作家で、「ピカソが来たら・・」という設定でのお茶碗を作ったり、バサラ茶入という塩釉の茶入を作ったりと様々な作品に挑戦しています。
息子さんの潤氏も陶芸家で、今回は柿傳ギャラリーで二人展となりました。

席入して脇床を拝見しますと、農具の鋤と紙釜敷の上にレモンが荘ってありました。
鋤は放置してあったものを掛け、レモンは黄色ということで選んだとのことです。

点前座で目を引くのが水指とお茶碗です。
これらは茶会の名前になった「求美図夢」シリーズで、あたかもピカソの絵のような、正面と側面が融合したキュビズムの作品です。
他では拝見できないデザインでした。

床にはひろ氏の水墨画が掛かります。
キュビズムのお茶碗で、一人一碗ずつ濃茶をいただきました。
ずらりと並ぶ茶碗は、一つとして同じものがなく、壮観でした。
お菓子はひろ氏在住の出雲のもので、美味しかったです。

濃茶の後の点心は、柿傳のレベルの高い懐石で、椀と御酒がつき、堪能しました。
最後は薄茶で、潤氏のオーソドックスなお茶碗でゆっくりいただきました。
 

●展覧会情報

安食ひろ 求美図夢茶会
柿傳ギャラリー(東京都新宿区)
2015年7月25日~2015年7月31日
http://www.kakiden.com/gallery/

 



没後20年 ルーシー・リー展(千葉市美術館)

「お茶」を感じるイギリスの器

没後20年 ルーシー・リー展

千葉市美術館にて「没後20年 ルーシー・リー展」を拝見して参りました。
ルーシー・リー(1902-1995)の回顧展としては5年ぶりで、今回は茨城県陶芸美術館、千葉市美術館、姫路市立美術館、郡山市立美術館、静岡市美術館と巡回します。

作品は年代順に展示されていまして、まずリー氏が陶芸を習い始めた頃の作品を拝見します。
一見して拙い印象を受けます。形は湯飲みのような筒状で釉薬ものっぺりしていて、面白みに欠けています。
それでも幾つかの釉薬を使おうとして、リー氏らしさが生まれようとしています。

その後、生活のために作ったとされる陶器で作ったボタンが並びます。
さまざまな形があり、また多くの種類の釉薬を使っていたことに惹かれます。
この経験を通じて、リー氏は釉薬の豊富な知識を得ました。

第二次大戦後、ハンス・コパー(1920-1981)と出会い、リー氏らしい作品が作られ始めます。

リー氏が多く作った鉢でまず目を引くのは、蓮の葉が開いてうねるような形が素敵な斑文大鉢です。
花器は、円筒花器と呼ばれる、筒状の胴の上にアサガオの開いた細い筒を繋げた形がユニークです。

小ぶりな鉢は抹茶茶碗に見立てられます。ピンク線文鉢は開いた口がすっとつぼまり、細い高台がお洒落で、ピンクに抹茶が映えそうです。
間近で拝見しますと本当に薄作りということが分かります。

さまざまな釉薬を使いこなすのもリー氏の特徴です。
荒々しい溶岩釉を始め、銅色のブロンズ釉、マンガン釉、黄釉、白釉、ピンク釉・・と続きます。

文様は、掻き落しという手法を使っています。これは二重に塗った釉薬を針のようなもので上の釉薬を削って文様を描くものです。
これにより細い等間隔の直線や同心円、網目といった幾何学文様の作品が数多く展示されていました。
変わった文様は、葉文鉢という木の葉を描いたものがありました。これは古代ローマの墓石にあった文様で、リー氏が魅了されて作ったとあります。

今回、特に惹かれましたのは、白い釉薬の鉢に水色の釉薬で同心円の細い線を描いている、白釉青線文鉢です。
とても美しく、カラフルな果物を置いたら似合いそうです。

リー氏は、日本の茶道を意識したことはないようで、形も釉薬もお茶で使う器とはだいぶ違いますが、それでも「お茶」を感じる器もあり、不思議なことと思いました。

また会場には、リー氏を撮ったビデオを上映していて、ロクロで形を作り、掻き落しで文様を描き、窯から焼きたての作品を取り出す様子を拝見できました。
 
没後20年 ルーシー・リー展
 

●展覧会情報

没後20年 ルーシー・リー展
千葉市美術館(千葉県千葉市)
2015年7月7日~2015年8月30日
http://www.ccma-net.jp/
 

●関連書籍

ルーシー・リー&ハンス・コパー 二十世紀陶芸の静かなる革新
ルーシー・リー モダニズムの陶芸家
ルゥーシー・リィー 現代イギリス陶芸家
ルーシー・リーの陶磁器たち
ルーシー・リー
 



着想のマエストロ 乾山 見参!(サントリー美術館)

美の革新者

「着想のマエストロ 乾山 見参!」展
サントリー美術館にて「着想のマエストロ 乾山 見参!」展を拝見して来ました。

尾形乾山(1663-1743年)は、絵師・尾形光琳(1658-1716年)の弟として京都の裕福な呉服商「雁金屋」に生まれ、恵まれた文化的環境に育ちますが、20代後半に隠居し野々村仁清に作陶を学びました。

乾山の作品は、懐石道具展や季節の取合せ展ではよく展示されます。
ただ今回のようなまとまっての単独の展覧会は初めて拝見しました。
(滋賀県のMIHO MUSEUMでは2004年に「乾山-幽邃と風雅の世界」展が開催されました)

展示は乾山の系図から始まります。
曾祖父の道柏は琳派の始祖・本阿弥光悦(1558-1637年)の義兄、父の弟の息子は樂家の養子として五代宗入(1664-1716年)です。
宗入と乾山は従兄弟同士で生没年が近く、何らかの繋がりがあったと想像します。

樂美術館発行の「華と月」には、

「残念ながら、樂家には乾山との交友を窺う文書は伝わっていません。(中略)樂焼との共通性が高いこれらの乾山作品には、従兄弟の養子先樂家との交流があったとしてもおかしくありません。色釉、銹絵の装飾性豊かな乾山陶は、趣こそ違え樂焼とは共通するところの多い、まさに「従兄弟」の間柄に喩えることのできる焼物といえるでしょう」

と書かれています。

系図の傍らには光悦の「熟柿」と樂家三代のんこうの「山里」が展示され、乾山の活躍振りを見守っているかのようでした。
そこから先はずらりと乾山の作品が並び、乾山の世界に入り込むことができます。

乾山の特徴のひとつは、お皿や茶碗を一つのキャンバスに見立てて、絵や画賛を書き付けており、あたかも一枚の色紙を拝見するようです。
特に兄の光琳との合作(光琳が絵、乾山が賛)は見事です。

もうひとつの特徴は、絵を立体的に表現しています。
例えば蓋物は、器の内側にも絵を描き、蓋を開けるとがらりと雰囲気が変わります。

向付や盃台は、形が紅葉や桜の花びらになっており、絵だけではなく形でも表しています。

また乾山はデザイン力にも優れ、例えば「色絵石垣文皿」のカラフルな文様は、現代のデザイナが作ったと言っても納得してしまいます。
逆に300年前にこのお皿を見た人々は、どんな感想を持たれたのか興味深いです。

そうして色あせない魅力を持つ乾山の作品は、現代まで写しが作られ、先日サントリー美術館で展覧会がありました仁阿弥道八(1783-1855年)や宮本憲吉(1886-1963年)の作品が展示されていました。

 
 

●展覧会情報

着想のマエストロ 乾山 見参!
サントリー美術館(東京都港区)
2015年5月27日~2015年7月20日
http://www.suntory.co.jp/sma/
 

●関連書籍

乾山焼入門
光琳乾山兄弟秘話
乾山晩愁



茶の湯釜の文様(大西清右衛門美術館)

モチーフの美

茶の湯釜の文様

大西清右衛門美術館にて「茶の湯釜の文様」を拝見してきました。

茶の湯の釜を拝見してまず目に入りますのは、真形、車軸、富士・・とまず形ですが、今回は目をこらさないとなかなか拝見できない釜の文様の展覧会です。

釜の文様は、下絵を裏返して鋳型に貼り付けてへこますようにして釜の表面に篦押しして描きます。

鉄を鋳込んで作る文様ですので、色はなく、鉄の凹凸で表現しています。

釜を一度作ると、釜を取り出すときに鋳型は壊してしまうので、一期一会の文様です。

今回拝見した釜で特に印象深い釜は次のとおりです。

狩野探幽下絵 雲龍地文鍋釜 二代大西浄清作
  琳派四百年と話題となっています狩野派の探幽(1602-1674年)と
  名工と言われた浄清の共作です
東山魁夷下絵 松地文真形釜 銘巌松 唐銅朝鮮風炉添 十五代大西浄心作
  文化勲章を受章した東山魁夷(1908-1999年)と先代の浄雪の共作で
  探幽-浄清の作品から約三百年の時を経て作られました
鮎地文撫形釜 初代大西浄林作
  炉釜ですが夏が旬の鮎の文様で、注文主が鮎が好きだったのか、
  話題を求めたのか・・と想像が膨らみます
雲龍釜 西村九兵衛作
  漫画のようなユーモラスの龍が描かれていました
亀甲釜 六代大西浄元作
青海波釜 十代大西浄雪作
  どちも日本の伝統的な文様です
湘相八景地文八角釜 十六代大西清右衛門作
  山水画の伝統的な画題で、今回ご当代が八角釜で作られました

展覧会には他にも、地文をテーマにした釜以外の茶道具が展示されました。

垣ニ菊地文籠形燗鍋 大西五郎左衛門作
春秋草花蒔絵溜柄炉灰杓子・火箸 飛来一閑・十四代大西浄中作
松平不昧好 南鐐若松毛彫酒次 中川浄益作
南鐐水草彫輪花盆 十五代大西浄心作
唐銅鶴蝶彫建水 十五代大西浄心作

また7階の弄鋳軒では、春らしい釣釜(浜松地文富士釜 二代大西浄清作)と利休好の桐木地旅箪笥の取合せでした。
  
  

●展覧会情報

茶の湯釜の文様
大西清右衛門美術館(京都市中京区)
2015年4月21日~2015年6月28日
http://www.seiwemon-museum.com/j/index.html

三井の文化と歴史-茶の湯の名品-(三井記念美術館)

伝来の重み

三井の文化と歴史-茶の湯の名品-

三井の文化と歴史-茶の湯の名品-

三井記念美術館にて「三井の文化と歴史-茶の湯の名品-」を拝見して参りました。

開館10周年記念特別展1の前期にあたります。
(後期は -日本屈指の経営資料が語る三井の350年-です)

素晴らしい茶道具で、順を追って説明致します。

まず入館すると、伊賀耳付花入 銘「業平」が迎えてくれます。
続いて続々と名品が並びます。

・狩野探幽下絵 色紙霰松毬鐶付輪口釜 大西浄清作
・黒塗棗は、武野紹鴎好と千利休在判の二つ
・茶杓は、武野紹鴎作・千宗旦筒 銘「ホトトキス」
・茶入は幾つかありまして、特に良かったのは、大名物 唐物肩衝茶入 北野肩衝と薩摩甫十瓢箪茶入 銘「二見」

茶入は、北野肩衝の堂々さと甫十瓢箪のユーモラスなところが好対照でした。

また単独だけではなかなか分からない、利休と紹鴎の棗の特徴が、両者を比較することによって際立つことができました。

上記を拝見した後、黒樂茶碗 銘「俊寛」で一区切りつきまして、如庵写しの展示室へ移動します。

如庵は京都建仁寺から北三井家十代高棟が譲り受けて、1928年に席披きをした現在国宝のお茶室です。

今回ははその席披き時の取合せを展示していました。
こちらも

伊賀耳付水指 銘「閑居」
中興名物 瀬戸二見手茶入 銘「二見」
御所丸茶碗
千利休作茶杓

と名品揃いです。

次の展示室は、掛物の展示で、水墨画、墨跡、歌切(継色紙、升色紙、寸松庵色紙、高野切)と圧倒されます。

その次はメインステージと呼ぶべきで、お茶碗の名品が展示されています。

国宝である志野茶碗 銘「卯花墻」に始まり、三島茶碗 二徳三島、粉引茶碗 三好粉引、呉器茶碗 銘「小倉山」、それに光悦の黒樂茶碗 銘「雨雲」、のんこうの赤樂茶碗 銘「鵺」と各分野の名品が目白押しです。

最後の展示室は「三井家の文雅」と題され、歴代の三井家の方々の絵や書が展示されており、商人だけでなく、文化人としても活躍されていたことが分かりました。
 
 

●展覧会情報

三井の文化と歴史(前期)茶の湯の名品
三井記念美術館(東京都中央区)
2015年4月11日~2015年5月6日
http://www.mitsui-museum.jp/index.html