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~ 楽在一碗中 ~
利休の風景

利休の風景

傑作生み出す発想の原点

利休の風景

直木賞受賞作で映画化もされた「利休にたずねよ」の作者である山本兼一氏の、利休居士を中心としたお茶に関するエッセーです。

山本氏は利休居士の小説を執筆していますので、お茶や桃山時代について調べているとは想像していましたが、子供の頃からお茶に縁があったと本書で初めて知りました。

それは、山本氏のご両親が大徳寺の聚光院で下宿した縁から、子供の頃にご両親とたびたび聚光院に訪れ、利休居士の話を聞かされ、それが四十年以上を経て「利休にたずねよ」の構想に結びついたとのことです。

また感心しましたのは、山本氏が利休居士やお茶に対して独自の解釈をしていることです。

例えば次のような意見です。

  • 利休居士はレトリック(修辞)を操り言葉のマジックで新しい美的価値を創造した竹の花入の「園城寺」のようにに見立てたものに名前をつけ、後生まで伝世するようにした
  • 二畳の待庵のような狭い茶室は、俗世から切り離され、それ自体が完結した空間で人間のこころを包み込み、母の胎内にも似ている

利休居士やお茶を知識として扱うだけでなく、深い理解があってこそ、「利休にたずねよ」という傑作が生み出されたことと納得しました。

巻末には、樂家当主の樂吉左衞門氏との待庵での対談があり、樂氏と山本氏の解釈が展開され、こちらも興味深く読みました。

その中で、樂氏の「僕が本当に利休に出会ったと思えるのは、この待庵に来て坐ることと、あとは数碗の長次郎茶碗に出会うこと、かな。」という言葉が印象に残りました。

「利休にたずねよ」を読まれて作者の発想の原点を知りたい方にとどまらず、利休居士やお茶に対する新たな見方を知りたい方にもお勧め致します。

 

書籍情報

タイトル
利休の風景
著者
山本 兼一
出版社
淡交社
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