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頴川美術館の名品(渋谷区立松濤美術館)

頴川美術館の名品(渋谷区立松濤美術館)

住宅街の名品

頴川美術館の名品

渋谷区立松濤美術館にて「頴川美術館の名品」展を拝見して参りました。

松濤美術館は住宅街の一角にあり、白井晟一(1905-1983年)の設計により1981年に開館した美術館です。石造りのファサード、噴水のある地下二階から地上二階までの吹き抜けに橋が架かり、区立美術館と思えないようなモダンな作りです。

頴川美術館は、江戸時代から廻船業や山林業で成功した大阪の商家頴川家の四代目頴川徳助(1899ー1976年)が1973年に兵庫県西宮市に開館しました。東京でまとまって公開されるのは1984年以来という30年ぶりの貴重な展覧会です。

頴川美術館の名品

会場は二カ所に分かれ、地下一階の第一会場ではやまと絵、写生画といった掛軸や屏風が中心です。心に残りました作品は次のとおりです。

光忍上人絵伝断簡 鎌倉時代
そぼくな絵に惹かれます

春秋花鳥絵 土佐光起(1617-1691年) 江戸時代
緊迫や華やかな色遣いの大変豪華な屏風絵です

大原女図 英一蝶 江戸時代
拝見する機会があまりない英一蝶(1652-1724年)の絵で、一蝶らしい洒落た絵です

三保松原図 伝能阿弥(1397-1471年) 室町時代
元は屏風絵だった松原の広大なパノラマ図で、屏風の前に座りましたら、あたかも三保の松原で景色を拝見している気持ちになりそうです

二階の第二会場は工芸品から始まり、ここに今回の目玉である長次郎の無一物を含むお茶道具が展示されています。

魅了された作品は次のとおりで、いずれも独立ケースに展示され、ぐるりと周りから拝見できるという嬉しい配慮がなされています。

赤樂茶碗 銘無一物 長次郎(中興名物)
樂家初代長次郎(-1589年)の有名な赤樂茶碗です。
個人的には長次郎の赤樂茶碗では一番と思います。
きりっと端正な姿で透明釉がカセて実物を拝見すると「赤」というよりも肌色に近い色と感じます。
見込みは広く、手取りも本当に良さそうで、どなたかが「無一物を手にすると体と一体化するようだ」とお書きになっていて、その通りと思えます。
松平不昧公(1751-1818年)も所持されていました。

肩衝茶入 銘勢高(大名物)
織田信長(1534-1582年)の所持の折りに本能寺の変で焼け出された後、古田織部(1544-1615年)の所持となった経歴の茶入です。
間近で拝見すると火事で焼け焦げた様子が見てとれます。
名前のとおり背が高く、堂々とした茶入です。

芦屋松林図釜 (大名物) 鎌倉時代
霰に松林図が描かれた覆垂の小振りな釜です。
釜肌に時代を感じます。

茶杓 後西院作
折りタメで蟻腰の美しい茶杓です。拭き漆がしてあるようです。
後西院(1638-1685年)作の茶杓は初めて拝見しました。

無準師範筆 淋汗
大きな文字の堂々とした無準師範(1177-1249年)の書です。
淋汗とは汗を流す程度の軽いお風呂のことで、室町時代にお風呂の後に茶を喫するという「淋汗の茶」が流行りました。

頴川美術館にはお伺いしたことはないですが、写真と「文教地区にあり、小さくともキラリと光る美術館」というキャプションから、松濤美術館と雰囲気が似ているのではと想像し、あたかも頴川美術館にお伺いした思いで会場を後にしました。

頴川美術館の名品

●展覧会情報

頴川美術館の名品
渋谷区立松濤美術館(東京都渋谷区)
2016年4月5日~2016年5月15日
http://www.shoto-museum.jp/

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