素直な心でお茶を
パナソニック汐留ミュージアムに「幸之助と伝統工芸」を見に行って来ました。
「経営の神様」と呼ばれる松下幸之助氏(明治27(1894)~昭和59(1984))は、あまり知られていないですが裏千家で茶道を学び、京都に真々庵という数寄屋住宅を持ち、流儀の発展に貢献した門人に与えられる老分を務めるほど茶道に取り組んでいました。
実業家の数寄者として活躍した荏原製作所の畠山即翁氏、阪急電鉄の小林逸翁氏、東急電鉄の五島慶太氏、東武鉄道の根津青山氏らは、収集した茶道具や美術品を保存する美術館を建てて公開していますが、松下幸之助のコレクションが公開されたことは(知る範囲では)なく、窺い知ることはできませんでした。
それが今回、パナソニック汐留ミュージアムの開館10周年記念として展示されることになり、どのような名品を拝見できるかと興味津々でした。
会場に入ると幸之助氏の茶道に対する次のような思いを本人の語りで聞くことができます。
「お茶をやる人は、本当は素直な心にならんといかんわけです。(中略)勝ってやろうかと負けようとかそんなことにとらわれず、それを超越した道が分かるわけですね。それがお茶の一服の価値じゃないかと思うんですよ。」
幸之助氏はこの「素直な心」を生涯大切にし、その「素直な心」を育む道として茶道に興味を持ったようです。
展示してある茶道具を一つづつ拝見して行きました。
幸之助氏が日頃にお茶を楽しんだ樂一入の黒茶碗「閑談」、樂宗入の黒茶碗「毛衣」や古九谷丸紋花鳥絵台鉢と古美術品は数点で、他は千家十職の先代の茶碗、北大路魯山人の平鉢、金重陶陽の花入といったようにほとんどが現代の作家の手になるもので、意外な感じでした。
さらに進むと茶道具でなく、着物、人形、飾棚とさまざまな工芸品が展示されていました。
ところが会場に幸之助氏の次の言葉があり、なるほどと思いました。
「名工の作という工芸品のようなものを作らんといかん。松下電器はね、大量生産だけど。」
幸之助氏は茶道具に触れるうち、現代の工芸家と接点を持ち、自社のものづくりと重ね合わせ、「伝統工芸は日本のものづくりの原点である」との確信から、工芸家を支援する思いもあってコレクションを始めたようです。
また、幸之助氏は古美術の茶道具に興味がないということではなく、淡々斎十七回忌や坐忘斎の若宗匠格式宣誓式といった裏千家の茶会では、千利休の茶杓、中興名物の茶入、井戸茶碗といった名品を使いました。
今回、松下幸之助のコレクションを拝見できたのは良かったです。あと幸之助氏がどのようなお茶会をされたかそのイメージを掴みたかったです。
展覧会情報
- 名称
- 開館10周年特別展「幸之助と伝統工芸」展
- 会場
- パナソニック汐留ミュージアム(東京都港区)
- 会期
- 2013年4月13日~2013年8月25日
- 公式サイト
- http://panasonic.co.jp/es/museum/