美の革新者
サントリー美術館にて「着想のマエストロ 乾山 見参!」展を拝見して来ました。
尾形乾山(1663-1743年)は、絵師・尾形光琳(1658-1716年)の弟として京都の裕福な呉服商「雁金屋」に生まれ、恵まれた文化的環境に育ちますが、20代後半に隠居し野々村仁清に作陶を学びました。
乾山の作品は、懐石道具展や季節の取合せ展ではよく展示されます。
ただ今回のようなまとまっての単独の展覧会は初めて拝見しました。
(滋賀県のMIHO MUSEUMでは2004年に「乾山-幽邃と風雅の世界」展が開催されました)
展示は乾山の系図から始まります。
曾祖父の道柏は琳派の始祖・本阿弥光悦(1558-1637年)の義兄、父の弟の息子は樂家の養子として五代宗入(1664-1716年)です。
宗入と乾山は従兄弟同士で生没年が近く、何らかの繋がりがあったと想像します。
樂美術館発行の「華と月」には、
「残念ながら、樂家には乾山との交友を窺う文書は伝わっていません。(中略)樂焼との共通性が高いこれらの乾山作品には、従兄弟の養子先樂家との交流があったとしてもおかしくありません。色釉、銹絵の装飾性豊かな乾山陶は、趣こそ違え樂焼とは共通するところの多い、まさに「従兄弟」の間柄に喩えることのできる焼物といえるでしょう」
と書かれています。
系図の傍らには光悦の「熟柿」と樂家三代のんこうの「山里」が展示され、乾山の活躍振りを見守っているかのようでした。
そこから先はずらりと乾山の作品が並び、乾山の世界に入り込むことができます。
乾山の特徴のひとつは、お皿や茶碗を一つのキャンバスに見立てて、絵や画賛を書き付けており、あたかも一枚の色紙を拝見するようです。
特に兄の光琳との合作(光琳が絵、乾山が賛)は見事です。
もうひとつの特徴は、絵を立体的に表現しています。
例えば蓋物は、器の内側にも絵を描き、蓋を開けるとがらりと雰囲気が変わります。
向付や盃台は、形が紅葉や桜の花びらになっており、絵だけではなく形でも表しています。
また乾山はデザイン力にも優れ、例えば「色絵石垣文皿」のカラフルな文様は、現代のデザイナが作ったと言っても納得してしまいます。
逆に300年前にこのお皿を見た人々は、どんな感想を持たれたのか興味深いです。
そうして色あせない魅力を持つ乾山の作品は、現代まで写しが作られ、先日サントリー美術館で展覧会がありました仁阿弥道八(1783-1855年)や宮本憲吉(1886-1963年)の作品が展示されていました。
●展覧会情報
着想のマエストロ 乾山 見参!
サントリー美術館(東京都港区)
2015年5月27日~2015年7月20日
http://www.suntory.co.jp/sma/