写真は真を写すものか-現代の数寄者
千葉市美術館にて杉本博司展を拝見して参りました。
この展覧会は「杉本博司 今昔三部作」と「杉本博司 趣味と芸術-味占郷」の二部構成です。
今昔三部作
三部作とは、杉本氏の代表作というべき三つの写真シリーズ「海景」、「劇場」、「ジオラマ」のことです。
「海景」
最初の展示室に入りますと「海景」の約120cm×150cmの大きな写真が5枚展示されています。
海岸はなく、波立つ海と雲のない空が広がります。どちらもくっきりとせずぼやかしており、モノクロームの不思議な景色です。
展示室は暗く、スポットライトの当たった作品が床に反射し、作品に吸い込まれそうです。
「劇場」
次の展示室は「劇場」です。これは様々な劇場のスクリーンに映画を映し、それを撮影したものです。長時間露光したため、スクリーンは真っ白で周りは薄暗く写っています。オペラハウスのような趣の有る劇場もあります。
この展示室も薄暗く、写真にスポットライトが当たっており、劇場に入ってスクリーンを見ているようです。
「ジオラマ」
三部作の最後は「ジオラマ」で、一見すると荒野や原生林と動物の巨大なプリントです。
ところがよく見ますと、動物たちのポーズや配置(空を飛ぶ鳥も)が絶妙であり、木々は筆で描いたような箇所があります。
どのように撮影したのか不思議な作品で、首をかしげながら拝見していました。
ここまで杉本氏の写真を拝見しまして、「真」を写すから写真なのではと思っていたところ、そうでないのではと考え始めました。
趣味と芸術-味占郷
こちらは杉本氏が、雑誌の連載で「味占郷」という仮想の和食店を開き、毎回ゲストを招待して、食事や器や設えを楽しんでもらうという企画から生まれたものです。
その時の、床飾りと器を中心に展示していました。
器は粉引、乾山、ルーシー・リーと多彩で、器だけでも一見の価値があります。
さらに、床飾りは杉本氏の作品を含む、古今東西の事物を取合せていまして、どれもあっと驚き、おっと感心し、なるほどと納得し、最後は素晴らしいと賞賛する取合せばかりでした。
幾つか写真で紹介します。
杉本氏は過去の展覧会でも、お茶席の床飾りを展示したこともあるほど、お茶にも造詣が深く、お茶道具を用いていなくても、不思議なほどどの取合せもお茶がありました。このままお茶事が始められそうです。
杉本氏は、茶席に仏教美術を持ち込んだ益田鈍翁のような、発想・センス・実行力があり、現代の数寄者であると深く納得致しました。
また著作「アートの起源」には「茶道さかえて茶人なし。そのような事態に陥らないためにも、私は広く数寄者を求めて、日本を彷徨い出ようと思っている。」とあり、今後の一層の活躍に期待致します。
参考文献(美術手帖以外はいずれも杉本博司著)
・苔のむすまで・・新潮社
・アートの起源・・新潮社
・美術手帖 2014年7月号(杉本博司特集)・・美術出版社
・歴史の歴史・・新素材研究所
●展覧会情報
杉本博司 今昔三部作 趣味と芸術-味占郷
千葉市美術館(千葉県千葉市)
2015年10月28日~2015年12月23日
http://www.ccma-net.jp/