いちわん

~ 楽在一碗中 ~
お茶の本

近代の茶杓―数寄者たちの優美な手すさび

意外な方の茶杓

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作者の池田瓢阿氏は竹の工芸作家で、ご自分で茶杓や竹の花入等茶道具を作っていらっしゃることに加えて、竹の茶道具の研究をなさっています。

この本は、茶杓の研究書で、近代以降、さまざまな方が作られた茶杓を取り上げて解説しています。

第一章は数寄者の茶杓で、益田鈍翁を始め、三井高福、森川如春庵、高橋箒庵、畠山即翁等々数寄者の茶杓を紹介しています。

第二章は知識人・芸術家の茶杓で、高橋杓庵、吉川英治、谷崎潤一郎、板谷波山、上村松園、中川一政、加藤唐九郎等を紹介しています。

吉川英治や中川一政が茶杓を作っていたのは知っていましたが、板谷波山、上村松園、加藤唐九郎が茶杓を作っていたのはこの本で初めて知りました。

特に「序の舞」で有名な画家の上村松園の茶杓「蜻蛉」は愛らしく、一見の価値があると思います。
 
 

書籍情報

タイトル
近代の茶杓―数寄者たちの優美な手すさび
著者
池田瓢阿
出版社
淡交社
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京の配膳さん

袴姿も凛々しく

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本屋さんで見かけて「配膳さん」とは?と思って手に取りました。

この本の冒頭では、「江戸時代・食生活事典」より「京都だけしかいない職業に配膳というのがある。色紋付きに袴をつけて宴席の配膳にあたる。原則として男性である。」とありましたが、筆者が調べるうちにお膳を運ぶだけでないことが分かります。

そして後書きには「配膳とは、あらゆる宴席、儀式、催しなどに際して高度な接客技術を持つ、いわば陰のコーディネーターである。」と書き、その守備範囲の広さが分かります。

お茶では三千家の初釜や献茶式等お茶会の水屋を担当され、お茶の点て方だけでなく点前や道具の扱いや道具の知識もお持ちとのことです。

配膳さんのノウハウである接客の仕方も書かれており、勉強になります。

配膳さんは、この本を読んだ後、京都の美術館の茶会で拝見しました。

袴姿が凛々しく、立ち居振る舞いが絵になっていて、京都の奥深さを実感しました。
 
 

書籍情報

タイトル
京の配膳さん―京都の宴席を陰で支える人たち
著者
笠井一子
出版社
向陽書房
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茶の湯の銘大百科

銘で拡がる思い

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茶杓の銘を考えることになり、久しぶりにこの本を取り出して調べてみました。

道具の銘を付けるのは日本人だけと聞いたことがあります。

例えば中国では、「青磁 印文 四耳壺」というように、作成方法や形、模様等で呼びます。

日本では「飛鳥川」「遅桜」「不二山」「俊寛」「鵺」「馬蝗絆」等々、歌、地名、花の名前、人名、架空の動物の名前、形から様々な銘で呼び、さらに思いが拡がります。

この本は銘の集大成ということで、数多くの銘が掲載されており、五十音順の索引もあり、調べるには便利です。

ただ五十音順以外では、季節と月別の索引があるだけで、「席披きにふさわしい銘は・・」という調べ方にはちょっと不向きです。

そういうシチュエーション別の索引もあればともっと便利と思います。

茶杓の銘は・・なかなか難しいです。日頃からもっと感性を豊かにしないと・・
 
 

書籍情報

タイトル
茶の湯の銘大百科
著者
筒井 紘一(監修),有馬頼底,稲畑汀子
出版社
淡交社
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茶室とインテリア

日本人のデザイン感覚

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日本人はなぜ靴を脱ぐかに始まり、茶室、建築、インテリア、水、炎・・等から日本的デザインの解説が書かれています。

その中で、利休、遠州、ノ貫(へちかん)といったお茶の話題も出てきます。

なるほど、なるほどと読んでいました。

インテリアデザイナーの内田氏は、茶室や茶道具のデザインもされています。

でもお茶の世界に入り込んで、という訳ではなく、一歩離れたところで、お茶と現在デザインを結びつけて、両者の仲介をなさっている稀有な方です。
 
 

書籍情報

タイトル
茶室とインテリア―暮らしの空間デザイン
著者
内田繁
出版社
工作舎
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近代数寄者の茶の湯

数寄者待望

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明治以降、近代数寄者と呼ばれる方々が登場しました。

この本の中心となる高橋箒庵、益田鈍翁、平瀬露香、原三渓、井上世外、住友春翠、藤田香雪、根津嘉一郎、小林逸翁、五島慶太、松永耳庵、畠山即翁、湯木貞一・・

茶道具を集め、茶事を重ね、数寄を楽しんだ憧れの方々です。

この本では、高橋箒庵の生涯を中心に、明治始めから箒庵が亡くなる昭和初期までに活躍した数寄者を取り上げ、「数寄者の誕生」、「数寄者の茶会」、「数寄者の思想」に章立てして書かれており、近代数寄者(の前半)を俯瞰できるようになっており、お薦めします。
(同じ著者で数寄者の茶会を取り上げた本も面白いので、別の機会に・・)

お茶が続くため、お茶を面白くするためにも、現代にも数寄者が出現しないかと待望しています。
 
 

書籍情報

タイトル
近代数寄者の茶の湯
著者
熊倉功夫
出版社
河原書店
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京の茶道具作家名鑑

女性作家の進出、着実に

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京都の茶道具作家を紹介した本です。

陶磁器、金工、漆工、木竹工と分野を分けて、ベテラン39名、若手12名を掲載しています。

さすがお茶の本拠地である京都、千家十職を含まずとも、層が厚いです。

しかも多くの方が代を継いでいます。

内容は、作家の略歴と写真、作品の写真、作風、署名・落款が掲載されています。

作家の代表的な複数作品を複数のカラー写真で紹介され、作風やイメージが把握できます。

また、作家の顔写真が掲載され、何名かの女性が含まれていることを初めて知りました。

当代の諏訪蘇山氏、高橋道八氏、一瓢斎氏、鈴木表朔氏といった方々で、名前だけでは和からず、女性の活躍に驚きました。

十職では、飛来氏、中村氏、黒田氏も当代は女性で、工芸作家に着実に女性が進出していると思います。

作家の名前や顔を知ることにより、お茶会で作品を拝見するときに作り手を身近に感じます。

また、これから活躍が期待される若手作家も紹介されており、ギャラリーやデパート等で個展がありましたら、一度作品をご覧になり、作家にお会いしてはいかがでしょうか。
 
 

書籍情報

タイトル
京の茶道具作家名鑑
著者
淡交社編集局
出版社
淡交社
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名碗を観る

贅沢な一冊

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茶碗、筆者、茶室、取り合わせ、それに写真とどれも素晴らしくまことに贅沢な一冊です。

茶碗は長次郎の「無一物」を始め、「ムキ栗」、光悦の「時雨」と「乙御前」、「不二山」、さらに和物茶碗の「卯花墻」、高麗茶碗の「喜左衛門井戸」までどれも名碗と呼ぶに相応しい豪華なラインアップです。

これらがその茶碗に縁がある茶室で拝見しています。

掲載された主な茶碗と茶室は次のとおりです。
 
無一物 ・・ 待庵(利休ゆかり)
ムキ栗 ・・ 武者小路千家 雲龍軒
時雨・乙御前 ・・ 八勝館(所持していた森川如春庵氏ゆかり)
卯花墻 ・・ 三井記念美術館 城山軒(三井氏が所持)
仁清色絵鱗波文茶碗 ・・ 北山美術館 看大(北山謹次郎氏が所持)
細川井戸 ・・ 畠山記念館 翠庵(畠山即翁氏が所持)
古堅手雨漏・蓑虫 ・・ 根津美術館 弘仁亭無事庵(根津青山氏が所持)
柿の蔕茶碗 毘沙門堂 ・・ 畠山記念館 毘沙門堂(この茶碗の入手を記念して畠山氏が建てた)
蕎麦茶碗 花曇 ・・ 谷松屋 一玄庵(松平不昧公ゆかりの茶道具商)
喜左衛門井戸 ・・ 大徳寺古蓬庵 山雲床(所持していた不昧公が寄進した)
 
また「無一物」ですと、利休作の竹花入・茶杓、利休好みの棗や釜といった道具組もぴったりで、これらが目の前にあるような質感もわかる素晴らしい写真で拝見して、取り合わせの妙にわくわくします。

さらに筆者は、焼物研究の第一人者である林屋先生と、小堀宗実遠州流家元、千宗屋武者小路千家家元後嗣の皆さまが楽しく縦横無尽に語り合い、興味が尽きません。

名碗を拝見したくなりましたら、まずこの本を手にとって開いてみるという素敵な本です。
 
 

書籍情報

タイトル
名碗を観る
著者
林屋晴三,小堀宗実 ,千宗屋
出版社
世界文化社
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気配、その美

Tea-activistとして

「気配、その美」千種さつき著 水声社

お茶の伝統の中にひそむ「気配の美」を求めて、著者の千種氏が世界各地で開催している実験的なお茶会の記録です。

千種氏は、「茶道家」、「茶人」、「数寄者」とも違い、お茶を媒体として世界を巡ってさまざな活動を行う、「お茶の活動家・・Tea-activist」との呼び方がふさわしいです。

そのお茶会は、次のとおりで、もう半歩踏み出すと、お茶から逸脱してしまいそうです。

それを「お茶」に踏み止めているのは、「ここでこそ、本物の『茶の力』を見せなくてはならない」と本文にあるように、千種氏のお茶に対する強い信念だと思います。

・ニューヨークでの温泉茶会
  温泉の様子を写したアメリカの写真家の個展でのお茶会
・五島美術館での墨林茶会
  和漢朗詠集の軸の元で平安時代の衣装を付けて漢詩と和歌を朗々と詠う茶会
・東京日仏学院でのワフリカ茶会
  日本の「和」文化とア「フリカ」文化をと融合したお茶会
・セゾン現代美術館での遭遇の茶会
  現代美術と茶釜を並べ、釜を宙に浮かせたお茶会
・ローマでの3.11義援金募集茶会
  東日本大震災から10日ほどで開催した3.11義捐金茶会
  
どのお茶会もお茶とさまざまな文化の融合を試みており、どのような空間であったか興味津々で、参加してみたくなります。

巻末には、千家十職の大西清右衛門氏が千種氏のために作成した、「皐釜」を囲んで、千種氏、大西氏、画家の黒田アキ氏、哲学者の小林康夫氏との座談会が収録されており、茶会のエピソードや参加者の思いが楽そうに披露されています。

最後に千種氏が、

「現代アートの作品も何百年前の釜や茶碗が茶会という場で出会うと、まるでオーケストラのように個別の「物」を超えた何かがゆらゆらと立ち上がってくる。するとそこに、「気配」が立ち籠めるんです。その非常の気配のなかで束の間、遊びたいんですね。解き放たれて、みなさんとその時間をともにしながらで・・」

と述べており、その「気配」こそお茶の本質の一つではないかという気がします。
  
  

書籍情報

タイトル
気配、その美
著者
千種さつき
出版社
水声社
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茶の湯の釜

鉄の魅力

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お茶の本の中でも珍しいお釜の本です。

作者は千家十職の釜師の十六代で、次のように盛りだくさんの内容です。
・鑑賞・茶の湯の釜 →名品の紹介
・大西家の歴代と作風
・釜の見所 →釜の形の分類と釜肌・地文・鐶付等パーツの解説
・茶の湯釜誕生 →釜の歴史
・その他:釜の作り方、大西家歴代の称号・落款、釜師の系譜、釜の手入れ方法等

広範囲に分かりやすく書かれており、作り手ならではと思います。現役の釜師が書かれた本は他にはなく、お勧め致します。

鉄は固くて壊れずずっと変わらないものというイメージでしたが、作者は「鉄の魅力は朽ち果てることで、朽ちることにより「侘び味」「やつれ」という味わいがでてくる」と書いていまして、それもまたお茶と納得致しました。

釜を展示している展覧会はそれほど多くなく、興味を持たれて釜を拝見したい場合には、作者が館長をしています「大西清右衛門美術館」をお勧めします。
 
 

書籍情報

タイトル
茶の湯の釜
著者
大西 清右衛門
出版社
淡交社
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奥秘にも使える名物茶入の伝来と逸話

充実して再登場

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茶入を名物、大名物等分類し、の次第や伝来、逸話等をまとめた本です。

この本のサブタイトルに「奥秘にも使える」とありますのは、流派によっては、この奥伝は唐物、この奥伝は名物、この奥伝は大名物を使う、と教えていただく場合があり、奥伝のお稽古で(仮定して)茶入の伝来や仕覆を説明するときに立ちます。

また、奥伝の場合は、天目茶碗を合わせることもあり、この本には天目茶碗の説明もあります。

ただ、奥伝のためだけではなく、多くの茶入を取り上げており、掲載した逸話も読んでいて楽しく、茶入の勉強にも役立つと思い、お勧めします。

この本は以前、「名物茶入伝来便覧」として出版され絶版となっていましたが、2011に改訂され、新たに出版されました。

以前と比較して、大幅に内容が充実されています。
 
 

書籍情報

タイトル
茶の湯便利手帳5 奥秘にも使える名物茶入の伝来と逸話
著者
青木準子
出版社
世界文化社
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