名品の入口
藤田美術館の「茶道具いろは」展を拝見して参りました。
藤田美術館は、明治に藤田財閥を興した藤田傳三郎氏(天保12(1841)~大正元(1912))、嫡子平太郎氏(明治2(1869)~昭和15(1940))、次男徳二郎氏(明治13(1880)~昭和10(1935))のコレクションで、昭和269年(1954)に開館しました。
藤田家の過去の壮大な敷地は、公園と太閤閣という施設になり、現在はごく一部を美術館として使用しています。
美術館には茶室と事務の建物があり、展示室は藤田家の蔵を改造したものです。太平洋戦争で空襲を受けましたが、この蔵が残り、名品の数々は無事に現在まで伝えられています。
藤田美術館は、収蔵品5000点、うち国宝9点、重要文化財50点と日本屈指の美術品を保持した大美術館です。他の美術館と比べてあまり目立たないようですが、ぜひ皆さまご覧いただきますようお勧め致します。
今回は「茶道具いろは」展ということで、名品中の名品ではなく名品の入口を案内したいという意図があるようです。
二階から拝見しますと、まず長次郎の黒樂茶碗、銘「まこも」が箱や仕覆といった次第とともに展示されていました。
「まこも」は「あやめ」と兄弟茶碗で、あやめよりも侘びているため、まこも(水辺の植物であやめほど華やかでない)と名付けられたとのことです。
外見は、長次郎の「大黒」にようにたっぷりとしたお茶碗で、一番内側が白木の箱で、その外に黒塗の箱、さらに白木の箱が二つと四重箱で保持していた方々がいかに大事にしてきたがよく分かります。
「まこも」の隣には対比したように長次郎の赤樂茶碗、銘「恩城寺」が展示されており、黒の侘びに比べて華やかさがありました。
入口とはいえ名品の数々です。
・黒漆中棗 羽田五郎作
室町時代の茶人村田珠光の注文により、初めて抹茶を入れる棗を制作しました。五百年近く経ているようで、漆が透けて赤みを帯びていました。
・凡鳥棗 初代中村宗哲作
藤村庸軒の好みで制作した棗で、大振りで蓋に桐の文様が描かれています。凡鳥とは鳳凰のことで、鳳凰は桐に住むことからこの文様になりました。凡鳥棗は現代も写しが作られている有名な棗で、初めて本歌を拝見しました。
・本手利休斗々屋茶碗
16世紀に朝鮮半島で作られた器で、日本で茶碗として見立てられて、千利休、古田織部、小堀遠州と大茶人に伝わった名品です。織部が仕覆だけ残して手放した後、遠州が手に入れ、織部が遠州に仕覆を譲ったというエピソードもあります。
斗々屋茶碗は直線的な形が多いですが、この茶碗は柔らかみのある端反った形で色も枇杷色と優しくとても美しいです。抹茶の緑が映えるお茶碗です。
その他に地味であまり目立たない、初代飛来一閑作の黒漆茶入とときん香合に惹かれました。どちらも一閑張でこちらはざっくりと侘びています。ときん香合は山伏が頭につける頭襟(ときん)から考えたもので、今も当代の一閑によって写され作られています。シンプルで素晴らしいデザインです。
藤田美術館は、来年平成26年(2014)の春と秋に、藤田美術館60周年記念展開催を予定しており、どのような名品が拝見できるか今から楽しみです。
展覧会情報
- 名称
- 平成25年春季展『茶道具いろは』
- 会場
- 藤田美術館(大阪市都島区)
- 会期
- 2013年3月9日~2013年6月16日
- 公式サイト
- http://www.city.okayama.jp/museum/fujita/