いちわん

~ 楽在一碗中 ~
展覧会

旅宿時雨(北村美術館)

四君子苑の茶席披き

京都北村美術館にて、開館四十周年記念展「旅宿時雨」を拝見して参りました。

今回の展示は、四十年前に美術館が開館披露した際に創設者・北村勤次郎が行った茶事の取り合わせでした。また折りよく、四君子苑の開放日にあたり、建物の中に入って拝見しました。

北村美術館は、寄付、腰掛、本席 初座、懐石、本席 後座、続き薄と茶事の流れに合わせた展示で、展示目録は四つ折りで茶事の会記の形式となっていました。

展示は数寄者北村氏らしい名品揃いで、その中で特に心に残った道具を書きます。

寄付は酒井抱一の「遠山時雨」で迎えられました。

腰掛で縞柿行李蓋の莨盆と古染付御所車絵の火入を拝見して席入しました。

本席の初座には、藤原範宗筆の熊野類懐紙が掛けられ、「旅宿時雨」の歌「草まくらかたしく袖におとづれて 志ぐる々秋のけしきなるかな」とあり、これが開館披露茶事と今回の展示のテーマと納得しました。

釜は与次郎作の名物尻張釜、利休好の殴の炉縁、呉須松皮菱の香合とそうそうたる道具組です。

懐石は鼠志野四方の向付、宗哲作の笹露蒔絵の煮物碗、織部松皮菱手鉢の焼物鉢、絵唐津沓の強肴鉢・・とどれも料理が映えそうです。

濃茶席の床は元伯作の瓢花入 銘 達磨です。茶入は時代蔦 金輪寺 利休在判で嵯峨桐金襴・日野間道の仕覆が添っていました。金輪寺で濃茶とは数寄者ならではと関心しました。

茶碗は金海猫掻手割高台の堂々としたもの、茶杓は遠州共箱の銘 式部卿まいるの煤と白サビの掛分けのような美杓でした。

広間の薄茶席に進むと左入の赤樂茶碗、不昧箱の高台寺蒔絵の茶器、茶杓は覚々斎共筒の歌銘 初しぐれでした。歌は「初しぐれ草の庵にきく夜哉」でこれもまた今回のテーマにぴったりのものでした。

その後、四君子苑を拝見して参りました。

四君子苑は、北村美術館創設者の北村勤次郎氏の住まいだったもので、昭和19年に北村捨次郎により、さらに昭和38年に吉田五十八設計により新しい母屋が建てられました。

四君子苑の名は、菊の高貴、竹の剛直、梅の清冽、蘭の芳香を讃える言葉があり、また菊竹梅(むめ)蘭から「きたむら」と読むことから命名されました。

玄関から案内されて最初に入りましたのは居間で、ソファーや執務机のある洋間でした。床から天井まである庭側のガラス戸が全て開くことができ、庭が一望できます。

居間からはうっそうとした庭しか見えず、京都の街中ではなく山の中に来たようで、まさに市中の山居です。

その後、廊下や幾つもの部屋を通って「珍散蓮」と名のある二畳台目の茶室へ(松永耳庵の命名とのこと)。

ここであの濃茶道具でお茶を出したのか・・と想像して楽しくなりました。小間と庭の間に板の間があり、どこかで見たような障子戸が・・と思っていたところ学芸員から「遠州が設計した孤篷庵の茶室「忘筌」の写しです」と教えていただき、なるほどと納得しました。

最後に薄茶席となった広間「看大」へ行き、ここからも庭が拝見できました。 対岸のビルを隠す生け垣に遮られて以前見えていた鴨川は見えなくなりました。しかしこの正客席からは今の如意ヶ岳の大文字をまっすぐに望むことができるとのことです。

見学者の中には、建築を学ぶ学生や建築工務店の職人さんらしい方を見かけ、数寄屋建築として「四君子苑」の有名さを改めて認識しました。

今回は、あいにくの大雨でしたが、庭の緑も美しく映え、「旅宿時雨」を堪能しました。


●展覧会情報

開館四十周年記念展「旅宿時雨」
北村美術館(京都市上京区)
2017年9月9日~2017年12月3日
http://www.kitamura-museum.com/

国宝展(京都国立博物館)

全て国宝

国宝展(京都国立博物館)
京都国立博物館の「国宝」展に行って参りました。

京都国立博物館と国宝がどちらも120周年記念という節目の年に京博では41年ぶりの国宝展です。「茶の湯」展と同じように、いくつもの展覧会で拝見した国宝の数々が一堂に揃いました。

今回会場となる平成知新館に初めてお伺いしました。本来は3階からの順路でしたが人手が多く、1階から廻ることにしました。

国宝のお茶道具は数少なく、曜変天目茶碗の三碗、志野茶碗の卯花墻、喜左衛門井戸、光悦の不二山で、他にも青磁花入、掛物があり、この中で幾つかが展示されていました。

展示点数が多く、強く惹かれた(なんと贅沢な!)国宝を紹介致します。(カッコ内は所蔵)

【彫刻】

1階に入りますと大きな仏像に迎えてもらい、圧倒されました。
一番新しい国宝の大日如来坐像(金剛寺)も拝見することができました。

【陶磁】

・青磁鳳凰耳花入 銘 万声(和泉市久保惣吉記念美術館)
-「国宝」展の翌日、後西天皇が兄弟に見立てた青磁鳳凰耳花入 銘 千声を、陽明文庫で拝見することができました。

・曜変天目(龍光院)
-静嘉堂文庫と藤田美術館の曜変天目はそれぞれ美術館で拝見したことがあり、これで三つの曜変天目を全て拝見できました。
・志野茶碗 銘 卯花墻(三井記念美術館)
-「茶の湯」展に引き続き再会しました。喜左衛門井戸は時期が異なり、拝見できませんでした。

【絵巻物と装飾経】

・信貴山縁起絵巻(朝護孫小寺)
-有名な巻物で今回初めて拝見できました。

【仏絵】

・釈迦金棺出現図(京都国立博物館)
・普賢菩薩像(東京国立博物館)

【中世絵画】

・秋冬山水図 雪舟筆(東京国立博物館)
・四季山水図巻(山水長巻) 雪舟筆(毛利博物館)
・破墨山水図 雪舟筆(東京国立博物館)
・慧可断臂図 雪舟筆(斉年寺)
・天橋立図 雪舟筆(京都国立博物館)
・山水図 雪舟筆
-雪舟の国宝六点を同じ展示室で一度に拝見できまして、感激しました。国宝展ならではです。

【近世絵画】

・風俗図屏風(彦根屏風)(彦根城博物館)
-少し前に彦根城にお伺いして模写を拝見したばかりでした。
・風神雷神図屏風 俵屋宗達筆(建仁寺)

【考古】

・深鉢形土器(火焔型土器)(十日町市)
・土偶(縄文のビーナス)(茅野市)
・土偶(縄文の女神)(山形県)
・土偶(仮面の女神)(茅野市)
-火焔型土器と三土偶を一度に拝見でき、興味深かったです。この展示室が一番混んでいるように感じました。

【書跡】

・尺牘(久隔帖) 最澄筆(奈良国立博物館)
・灌頂歴名 空海筆(京都国立博物館)
・金剛般若経開題残巻 空海筆(金剛峯寺)
-空海と最澄の書を一度に拝見できるとは、さすが国宝展です。

他にも、肖像画、中国絵画、染織、金工、漆工とありましたが、上記の作品に圧倒され、記憶にとどめるこができませんでした。

当日思いがけず京博のマスコットのトラりんに初めて会うことができ、そのキュートさに魅了されました。

 
-「トラりん」から名刺をいただきました―




●展覧会情報

国宝展
京都国立博物館(京都府東山区)
2017年10月3日~2017年11月26日
http://kyoto-kokuhou2017.jp/

茶の湯(東京国立博物館)

茶の湯の名品を一堂に

茶の湯(東京国立博物館)

上野の東京国立博物館にて、「茶の湯」展を拝見してまいりました。

東博での茶の湯展は37年ぶりとのことで、東京・京都・大阪等の美術館を廻って今まで拝見してきた、茶の湯の名品のほとんどが一堂に揃いました。

それぞれ、これは東京の畠山記念館・三井美術館・根津美術館、京都の樂美術館、大阪の湯木美術館・藤田美術館・・と久しぶりに再会した茶道具も多く、懐かしくなりました。

展示する作品数が多いため、広い東博の会場でも8期に分けての展示となり、興味ある作品を拝見するために複数回訪れなければならず、3回展覧会にお伺いしました。

膨大な数(出品目録では259点)で、特に心に残りました作品を紹介致します。(カッコ内は所蔵)

第一章 足利将軍家の茶湯-唐物荘厳と唐物数寄

・曜変天目 稲葉天目(静嘉堂文庫美術館)
  -何度拝見しても稲葉天目は美しいです
・油滴天目(大阪市立東洋陶磁美術館)
・青磁鳳凰耳花入(大阪市立東洋陶磁美術館)

第二章 侘茶の誕生-心にかなうもの

・唐物肩衝茶入 銘 初花(徳川記念財団)
・唐物肩衝茶入 銘 遅桜(三井記念美術館)
・唐物肩衝茶入 北野肩衝(三井記念美術館)
・唐物肩衝茶入 松屋肩衝(根津美術館)
  -有名な唐物茶入の勢揃いで圧倒されました
・唐物茶壺 銘 松花(徳川美術館)
・芦屋浜松地歌入真形釜
・天明筋釜(東京国立博物館)
・三島茶碗 二徳三島(三井記念美術館)
・大井戸茶碗 銘 喜左衛門井戸(孤篷庵)
  -喜左衛門も何度拝見しても心を奪われます
・大井戸茶碗 宗及井戸
・青井戸茶碗 柴田井戸(根津美術館)
  -大井戸はその迫力で近づき難いですが、柴田井戸は濃茶を練ってみたいと思います
・小井戸茶碗 銘 忘水(根津美術館)
・雨漏茶碗(根津美術館)
・蕎麦茶碗 銘 花曇

第三章 侘茶の大成

・印可状 虎丘紹隆宛(流れ圜悟)(東京国立博物館)
・偈頌 照禅者宛(破れ虚堂)(東京国立博物館)
・梅渓号(五島美術館)
・井戸香炉 銘 此世(根津美術館)
・南蛮芋頭水指(永青文庫)
・瓢花入 銘 顔回(永青文庫)
・赤楽茶碗 銘 白鷺(裏千家今日庵)
・赤楽茶碗 銘 無一物(頴川美術館)
・赤楽茶碗 銘 一文字
・黒楽茶碗 銘 ムキ栗(文化庁)
・黒楽茶碗 銘 万代屋黒(樂美術館)
・黒楽茶碗 銘 俊寛(三井記念美術館)
  -茶碗の中の宇宙展に続いて樂の名碗揃いです
・竹茶杓 銘 ゆがみ 千利休作(永青文庫)
・山上宗二記(表千家不審菴)
  -有名ですがなかなか機会がなく、今回初めて拝見しました
・伊賀花入 銘 生爪
・伊賀耳付花入 銘 破袋(五島美術館)
・小井戸茶碗 銘 老僧(藤田美術館)
・御所丸茶碗 古田高麗
・大井戸茶碗 有楽井戸(東京国立博物館)
・信楽一重口水指 銘 柴庵(東京国立博物館)
・志野茶碗 銘 卯花墻(三井記念美術館)
・鼠志野茶碗 銘 山の端(根津美術館)
・黒織部菊文茶碗
  -日本一の織部茶碗と思います
・黒楽茶碗 銘 時雨(名古屋市博物館)
・黒楽茶碗 銘 残雪(樂美術館)

第四章 古典復興-小堀遠州と松平不昧の茶

・小井戸茶碗 銘 六地蔵(泉屋博古館分館)
・古瀬戸茶入 銘 在中庵(藤田美術館)
・竹茶杓 銘 くせ舞 小堀遠州作
  -竹の景色が美しく美杓という言葉がぴったりです
・奥高麗茶碗 銘 深山路
  -あるお茶会で手に取って拝見することができ、感激しました
・大菊蒔絵棗
・伊賀耳付花入 銘 業平(三井記念美術館)

第五章 新たな創造-近代数寄者の眼

・交趾大亀香合(藤田美術館)
・唐物茄子茶入 国司茄子(藤田美術館)
・志野茶碗 銘 広沢(湯木美術館)
・大井戸茶碗 細川井戸(畠山記念館)

また、古田織部の茶室である「燕庵」が実物大で復元されていました。
あまりに多くの名品の数々で消化しきれず、頭がぼっとしながら博物館を後にしました。夢のようなひとときでした。

燕庵 燕庵

●展覧会情報

茶の湯
東京国立博物館(東京都台東区)
2017年4月11日~2017年6月4日
http://www.tnm.jp/

茶の湯ことはじめⅡ(畠山記念館)

月の季節のお茶会

茶の湯ことはじめⅡ(畠山記念館)

畠山記念館にて「茶の湯ことはじめⅡ」展を拝見して参りました。

これは昨年の「茶の湯ことはじめ」展に続くもので、説明を多くした茶の湯の初心者向けの展覧会です。

展示室に入りますと順路が書かれており、お茶会に参加したかのような体験ができます。

最初は掛物で、幾つかある中で森徹山筆の「月兎図」を拝見し、一足早く月の季節を感じました。

花入は、唐物瓢形花入が掛けられ、展示では花が入れられないなと思っていたところ、展示室の中の茶室に入りますと、目も鮮やかな竜胆が生けられ清々しい気持ちになりました。茶室では薄茶と干菓子をいただき、本当にお茶会に参加したかのようです。

茶室をでまして、濃茶・薄茶の展示が続き、幾つか特に心に残りました茶道具がありました。

珍しい備前茶入の銘「関寺」は、関寺小町にちなんだ銘で、挽屋が小町らしく竹を編んで漆で朱色にした市女笠の形をしており、これもまた大変珍しいものでした。

濃茶はこの茶入と、粉引茶碗の銘「放れ駒」、茶杓は小堀遠州作の銘「海士小舟(あまのおぶね)」の取り合わせでした。

薄茶は季節先取りの秋草御所車蒔絵棗が綺麗で眼を惹きました。

最後に、渡辺喜三郎作の庭園三足棚水指という、益田鈍翁好みの棚と一体化した水指を拝見しました。全体が溜塗で天板の下に四角い箱の水指があり、さらに脚がついたもので、椅子に座ってのお点前にちょうどよい高さです。これを観月の野点や立礼の茶会で使いますと皆驚くのではと思いました。



●展覧会情報

茶の湯ことはじめⅡ
畠山記念館(東京都港区)
2017年8月5日~2017年9月18日
http://www.ebara.co.jp/csr/hatakeyama/

茶碗の中の宇宙(東京国立近代美術館)

樂茶碗の今まで、そして未来へ

東京国立近代美術館にて開催されている「茶碗の中の宇宙 樂家一子相伝の芸術」を拝見して参りました。

近代美術館で何故お茶の展覧会をと思いましたが、樂家十五代の樂吉左衞門氏の作品が近代美術として高く評価されたのではと思います。

今回の展覧会は、樂家歴代の作品、特に初代長次郎と本阿弥光悦、それに樂ご当代の作品を一堂に拝見できることが特徴です。樂ご当代は「これほどの規模の樂の展覧会は暫く行われないだろう」と語っています。

会場に入りますと、二彩獅子に始まる長次郎のゾーンです。

(個人的に)長次郎の赤茶碗と黒茶碗のNo1と思っています、「大黒」と「無一物」を拝見でき、改めてこの二碗は素晴らしいと納得致しました。

さらにこの二碗に続く、黒「万代屋黒」、拝見する機会が少ない黒「禿」、赤「一文字」、長次郎の手の跡がわかる赤「白鷺」、筒茶碗の名品である黒「杵ヲレ」も並び、初めての機会に感激しました。

のんこうは名品、黒「青山」と赤「鵺」を拝見しました。

続いては光悦のゾーンです。黒の「村雲」と「雨雲」、飴釉の「紙屋」、それに何といっても赤「乙御前」を拝見することができました。「乙御前」は何回拝見しても素敵です。

長次郎の静謐さと厳しさにも、光悦の自由闊達さにも憧れます。

濃茶は大黒、薄茶は乙御前で・・いやいや濃茶を乙御前の方が洒落ているのでは・・と想像が膨らみます。

歴代の作品を拝見しつつ、樂美術館で拝見したことを思い出しました。

それらの中で惹かれるのは、一入の「山里」と宗入の「亀毛」です。「山里」は黒樂茶碗には珍しく素朴な絵が描かれています。「亀毛」はそのなまめかしいような何とも言えないほにゃとしたフォルムが素敵です。
どちらも樂美術館のお茶会で手にしたことがあり、特に「亀毛」はずっと手にしていたいお茶碗でした。

そしてご当代の十五代、十六代の幾つかの茶碗に続いて、ご当代のゾーンに入ります。

初めて拝見したご当代のお茶碗は「砕動風鬼」で、京都のCMで知って樂美術館で対面しました。その時に「吹馬」も拝見して、その斬新さ見事さに感激したことを覚えています。

樂美術館で月の火窓に魅了された「女媧」と見目麗しい「梨花」。佐川美術館の樂吉左衞門館で拝見した「舟中夜起」とフランスで焼き締めた花入。これはご当代が板で叩いて作ったと楽しそうにお話ししていました。智美術館にての久しぶりの個展で拝見した「一犂雨」。他の十職の方もさまざまな作品を出品していた大阪の民族博物館で拝見したAfricanDream「大地の朝」。これからも歩みを止めないと宣言するかのような巌のような新しいお茶碗。他にも岡山や茨城、名古屋の美術館にもお伺いしたと、それぞれのご当代の作品と出会った頃を思い出しました。

近年中に、おそらく代替わりが行われ、篤人氏が樂家十六代になることでしょう。その時に十六代がそして十五代がどのような作品を作られるのか興味は尽きません。





●展覧会情報

茶碗の中の宇宙
東京国立近代美術館(東京都千代田区)
2017年3月14日~2017年5月21日
http://www.momat.go.jp/

茶の湯の名品 破格の美・即翁の眼 (畠山記念館)

破格の格

畠山記念館にて「茶の湯の名品 破格の美・即翁の眼」展を拝見して参りました。
門をくぐりますと、輝くような一面の鮮やかな新緑の中、美術館に入りました。

お茶のお点前や道具には、「格」というものがあります。
今回の展覧会のテーマは、「破格の美」ということで、「格」を超えた道具が展示されていました。

まず目を引きましたのが、志野水指「古岸」です。大きなヒビがありながら、長石釉が美しく伊賀水指「破袋」の志野版との印象を受け、この水指を受け止める茶器と茶碗をどのように取り合わせるか悩ましいところです。

もう一つの破格の美は伊賀花入「からたち」で、堂々とした花入で格を超えた破格の格があると感じました。見送った金沢の数寄者や迎えた畠山即翁らが紋付袴の正装で身繕いを整えたのも頷けます。こちらはどのような花を入れるか悩ましいです。

もう一つの破格の美は伊賀花入「からたち」で、堂々とした花入で品格があり、見送った金沢の数寄者や迎えた畠山即翁らが紋付袴の正装で身繕いを整えたのも頷けます。こちらはどのような花を入れるか悩ましいです。

あと今回は展示期間でなく拝見できませんでしたが、破格の美の一つである割高台茶碗も展示されます。このお茶碗は古田織部所持の高麗茶碗で、大振りで迫力ある割高台が見どころで最近、重要文化財に指定されました。

濃茶席の取り合わせとして、南蛮縄簾水指、古瀬戸肩衝茶入「畠山」、粉引茶碗「松平」、津田宗及作の茶杓が展示されていました。特に粉引茶碗「松平」の火窓が見事で素晴らしく、三井記念美術館の粉引茶碗「三好」と共に粉引茶碗の名品です。

他には薄茶席の取り合わせ、懐石道具の展示、それに東京藝術大学大学美術館で展覧会が開催されている雪村周継筆の竹林七賢屏風もあり、タイムリーな展示と感心しました。

また茶席の取り合わせでとは別に、長次郎七種に数えられる赤樂茶碗「早船」も展示されていました。これは千利休がお茶会のために早船で取り寄せたという逸話があり、継ぎ跡と同下部の焦げが特徴の侘びたお茶碗です。

数々の作品を拝見し終わって、展示室内のお茶室に座り、美味しいお薄とお菓子をいただくことができ、ほっとして美術館を後にしました。

 

展覧会情報

茶の湯の名品 破格の美・即翁の眼
畠山記念館(東京都港区)
2017年4月8日~2017年6月18日
http://www.ebara.co.jp/csr/hatakeyama/index.html

国宝茶室 如庵 (有楽苑)

リラックスできるお茶室

名古屋から電車で30分、犬山遊園駅を降りて、本当にここに国宝の茶室があるのかと思いながら住宅街を歩いていますと、名鉄犬山ホテルが現れました。

犬山ホテルの前からは、これも国宝の犬山城の天守閣が見え、茶室「如庵」がある有楽苑が敷地内にあります。

有楽苑

如庵は織田信長(1534-1582年)の実弟である織田有楽(1547-1621年)が隠居後晩年に建てたお茶室です。

有楽は信長の死後、さまざまな武将に仕え、関ヶ原の戦いや大坂の陣も乗り越えて75歳と長命でした。後半生は武将よりも数寄者として活躍しました。

如庵は、有楽の隠居後の住まいである建仁寺塔頭の正伝院に作られた二畳半台目のお茶室で、妙喜庵の待庵(京都府山崎)、龍光院の密庵(京都大徳寺)と並んで国宝のお茶室の一つです。

廃仏毀釈の影響により如庵は、明治以降に祇園有志から三井家に渡り、麻布今井町、大磯の別荘と転々とし、1970年に名古屋鉄道の所有となって、1972年に犬山の有楽苑に落ち着くことができました。国宝の移築は極めて珍しく、名古屋鉄道は明治村を作ったこともあり、特別に許されたとのことです。

如庵の扁額

今回は、内部特別見学会の機会があり、お茶室に入ることができました。

お茶室に座っての第一印象は、想像していたよりも広くて明るく、緊張するよりもほっとできました。

広さは、茶道口の前にある有名な三角の鱗板と、点前座の火灯形にくり抜いた風炉先板によります。

明るさは窓の多さによるもので、それらの窓は高さや大きさにバリエーションがあり、見ていて飽きないです。

また点前座に座りまして、風炉先がくり抜かれていることの開放感とお客様の顔が見える嬉しさを感じました。

如庵

有楽は利休の弟子で、侘びを追求したこともあったと思いますが、隠居後は如庵でリラックスしながらお茶を楽しんだのではと想像しました。

そして世の中に如庵写しのお茶室が多いのも、有楽のようにお茶を楽しむためではないかと如庵に座って納得しました。

有楽苑には、他に元庵(大坂天満に有楽が作った三畳台目の茶室の復元)、弘庵(有楽苑でのお茶会のために作られた広間)があり、この二つのお茶室では秋の如庵茶会と正月の初釜が催されており、お茶をいただくことができます。

また元庵と弘庵と広芝生(野点)は、貸席として希望者が使うことができます。

有楽苑は茶室の他にも、旧正伝院書院、徳源寺唐門、有楽好みの井筒(佐女牛井)と見所も多く、木々の緑とともにゆっくり拝見することができました。
 

展覧会情報

国宝茶室 如庵
有楽苑 (愛知県犬山市)
http://www.m-inuyama-h.co.jp/urakuen/

茶の湯の継承 千家十職の軌跡展 (日本橋三越本店)

茶の湯の継承 千家十職の軌跡展 (日本橋三越本店)

十職縁の展覧会

三越日本橋本店にて「茶の湯の継承 千家十職の軌跡展」を拝見して参りました。
大正12年(1923年)5月に三越大阪店にて、「千家十職茶器陳列会」が開催され、そこで「千家十職」と命名されました。それから90年余が過ぎ、再び三越で十職の作品が一堂に揃うことになります。

会場には、十職の初代から当代までの作品がぎっしりと並び、圧倒されました。十職それぞれの個展や歴代展はありますが、全員の歴代展というのは記憶になく、一度に拝見できる貴重なチャンスです。

十職とそれぞれ心に残りました作品は次のとおりです。

永樂家(土風炉・焼物師) 当代十七代善五郎
 達磨堂釜土風炉 覚々斎好 六代宗貞作
 交趾釉踊桐文道安形小風炉 十一代保全作
 金襴手葵御紋茶碗  十一代保全作

樂家(樂焼・茶碗師) 当代十五代吉左衞門
 黒樂茶碗 銘禿 初代長次郎作
 黒樂茶碗 銘万代屋黒 初代長次郎作
 黒樂茶碗 銘比良暮雪 五代宗入作
 黒樂茶碗 銘遠山無限 坐忘斎書付 十五代吉左衞門作

大西家(釜師) 当代十六代清右衛門
 笠釜 銘時雨 初代浄林作
 鶴ノ釜 二代浄清作
 責紐釜 如心斎好 六代浄元作
 舵の釜 坐忘斎好 十六代清右衛門作

飛来家(一閑張細工師) 当代十六代一閑
 菊香合 初代一閑作
 亀蔵棗 十四代一閑作

土田家(袋師) 当代十三代半四郎
 コマツナギ緞子服紗 惺斎好 十代友湖作
 雲紹巴仕服 即中斎好 十二代友湖作
 七色緒網訶梨勒 鵬雲斎好 十二代友湖作
 
中村家(塗師) 当代十三代宗哲
 凡鳥棗 藤村庸軒好 初代宗哲作
 柳桜蒔絵棗 好々好 十一代宗哲作
 溢梅解香合 五代宗哲作
 四季誰が袖棗 即中斎好 十一代宗哲作

黒田家(竹細工・柄杓師) 当代十四代正玄
 竹一重切花入 銘帰雁 初代正玄作
 ゴマ竹張手桶水指 即中斎好 十二代正玄作

奥村家(表具師) 当代十三代吉兵衛
 三千家三幅対 吉兵衛表具
 金銀砂子風炉先 有隣斎好 十一代吉兵衛作

駒澤家(指物師) 利斎
 菊絵曲水指 八代利斎作
 ブリブリ香合 即中斎好 十四代利斎作

中川家(金物師) 淨益
 広口水指 了々斎好 七代淨益作
 純金冨士形釜 十代淨益作

多くの職家が三百年以上、十数代現在まで家元の下で続いているというのは、世界的にも稀有なのではないかと思いつつ会場を後にしました。

●展覧会情報

茶の湯の継承 千家十職の軌跡展
日本橋三越本店(東京都中央区)
2016年8月31日~2016年9月12日
http://mitsukoshi.mistore.jp/store/nihombashi/

茶の湯ことはじめ (畠山記念館)

茶の湯ことはじめ (畠山記念館)

お茶事へどうぞ

畠山記念館で開催されている「茶の湯ことはじめ」を拝見して参りました。
畠山記念館の展示は、床の間、濃茶、薄茶、懐石と茶事のシーンをイメージして、今回はお茶の初心者向けということで、さらに展示順を茶事の流れに合わせ、解説を作品だけでなく茶事についても解説していました。

床の展示ケースは前が畳で茶室のように座って拝見できます。狩野常信作の滝図が涼しげです。清巌宗渭の「水到瀟湘一様清」は湖のイメージが思い浮かびます。その隣は仁清作の錠花入で朝顔が入れられていました。

次は懐石で、春慶糸目膳、白釉向付、絵唐津草花文鉢、黄瀬戸六角や染付捻といったぐい呑みが並んでいました。

懐石の次は濃茶で、次のような道具が展示されていました。
・瀬戸茶入 銘「滝浪」・・黒い釉薬が一筋流れており、端正な茶入で、遠州-不昧の伝来です
・雨漏堅手茶碗・・シミがあり、「雨漏」とはよくぞ名付けたと感心します
・赤楽茶碗 銘「早船」・・長次郎作で、利休が茶会に早船で取り寄せたとのことです。楽茶碗に珍しく目跡がありました
・共筒茶杓 銘「水の江」・・新古今和歌集の「水江のよし野の宮は神さびて・・」から遠州が銘を付けた茶杓でサビが印象的でした

薄茶は濃茶よりもカジュアルな印象です。
・秋草御所車蒔絵棗・・季節の先取りで初秋の風情です
・黒楽茶碗 銘「馬たらい」・・長次郎作で口が広く夏向きです
・呉須山水沓形茶碗・・白地に呉須で山水が描かれています
・共筒茶杓 村田一斎作・・村田一斎は茶杓師であり、遠州の弟子で肥後細川家の茶頭を勤めたとあります

この他にも、砂張平水指、小振りな雲龍釜と石州好肩衝角風炉、唐銅笹蟹蓋置らが朝茶事にぴったりでした。
また備前茶入 銘「午枕」は夏の昼寝を思い出しました。

最後に箱の拝見ということで、茶入「滝浪」の次第が展示されていました。
茶入は内箱、外箱、さらに仕覆箱や蓋箱と共に総箱に収められている贅沢なもので、箱を包む風呂敷は更紗のようで鮮やかな洒落たものでした。

美術館を後にしたときは、一回のお茶事に参加したような満ち足りた気分でした。

●展覧会情報

茶の湯ことはじめ
畠山記念館(東京都港区)
2016年7月30日~2016年9月11日
http://www.ebara.co.jp/csr/hatakeyama/

住友春翠生誕150年記念特別展 バロン住友の美的生活―美の夢は終わらない 第2部「数寄者 住友春翠-和の美を愉しむ」 (泉屋博古館東京分館)

お茶と邸宅

住友春翠生誕150年記念特別展 バロン住友の美的生活―美の夢は終わらない

泉屋博古館分館にて「バロン住友の美的生活 美の夢は終わらない 第2部 数寄者住友春翠-和の美を愉しむ」を拝見して参りました。

泉屋博古館は住友家が収集した美術品を保存・展示した美術館で、1960年に京都鹿ヶ谷に完成し、その後2002年に東京六本木に東京分館が開館しました。

今回は、住友家15代住友春翠の生誕150年を記念して開催された第2部で、1部が絵画中心、2部は茶道具等東洋美術と住友家の邸宅が取り上げられました。

住友春翠(1864-1926年)は公家である徳大寺家から住友家に入り、明治・大正時代に住友グループの基礎を築き、また晩年には数寄者として茶の湯を嗜み、茶会を度々催しました。

最初の展示は「茶臼山本邸の概要 -茶臼山でお茶を」というタイトルで、1903年に竣工した神戸須磨別邸と1915年に完成した大阪茶臼山本邸の様子が展示されていました。

どちらも広大な邸宅で、須磨別邸は洋館、茶臼山本邸は日本家屋が中心で模型や図面、写真でその様子が展示されていました。また住友家の家紋である三盛抱茗荷紋が入ったディナーセットが展示され、その豪華な食事風景が想像できました。

驚きましたのは邸宅を飾った絵画類で、伊藤若冲の「海棠目白図」が展示されており、先日展覧会があった動植綵絵と画風もサイズも似ており、素晴らしい作品でした。その他邸宅には、モネやメアリー・カセットといった絵画も飾られていたようです。

次は茶道具が中心の展示です。茶臼山の邸宅には、裏千家今日庵写しの好日庵、知足斎といった茶室があり、春翠により茶事・茶会が行われました。

今回は、住友家12代友親30年忌の追悼茶会や知足斎炉名残茶会等の取り合わせを中心にして展示されていました。

名品揃いで、特に心に残りました作品は次のとおりです。

・佐竹本三十六歌仙 源信明・・大正8年に巻物から軸へ表装し直され、それ以来所有者が変わらない数少ないものの一つです
・白鶴香合 仁清作 ・・鶴が首をのばした綺麗な香合で、永樂善五郎に写させて自身の還暦茶会の引き出物にしようと考えていました
・大講堂釜 ・・徳川三代将軍家光より前田利常に伝来した大名物で堂々とした茶釜です
・瀬戸肩衝茶入 銘 真如堂 ・・肩が柔らかい端正な茶入です
・小井戸茶碗 銘 六地蔵 ・・小堀遠州が伏見六地蔵で見出したものでカイラギのある寂びた茶碗です
・小井戸茶碗 銘 筑波山 ・・六地蔵とならぶ名品で六地蔵よりさらに侘びを感じる茶碗です
・伯庵茶碗 銘 宗節 ・・高橋箒庵から譲られた茶碗で春翠愛蔵の品とのことです
・茶杓 銘 長生殿 住友春翠作・・すーっとした繊細な茶杓で公家出身らしい優美さが感じられます
・色絵龍田川水指 仁清作 ・・きれいさびと言えるような優美な水指です

春翠は63歳で亡くなり、自身の還暦茶会を催すことはできませんでした。さらに長命であれば数寄者としてさらに活躍したのではと思います。
 

●展覧会情報

バロン住友の美的生活 美の夢は終わらない 第2部 数寄者住友春翠-和の美を愉しむ
泉屋博古館分館(東京都港区)
2016年6月4日~2016年8月5日
http://www.sen-oku.or.jp/