いちわん

~ 楽在一碗中 ~
展覧会

有元利夫版画展

静かな音楽が流れる絵

有元利夫展の案内はがき

案内はがき

Bunkamura Box Galleryにて、有元利夫版画展を拝見してきました。

有元利夫氏(昭和21(1946)~昭和60(1985))は、疎開先の岡山県津山市で生まれた洋画家で38歳という若さで惜しまれて亡くなりました。

有元氏の絵の特徴は、イタリアのフレスコ画の宗教画のようで、以前書籍の表紙で拝見して、ファンになりました。本格的に拝見したのは2010年の東京都庭園美術館で開催された「有元利夫展・天空の音楽」展で、この展覧会ではあたかもヨーロッパの館に来たようで有元氏の世界に浸ることができました。

没後28年を経て、拝見する機会が減っていて、今回楽しみにして来ました。

今回、お茶とは直接関係はないのですが、有元氏の絵は侘びた雰囲気があり、お茶席に掛けることができるのではと、お伺いしました。

版画で二十五点と数は少ないのですが、どれもすばらしく、特に葉書に取り上げられた「春」と珍しく黄色中心の「遊戯」に心惹かれました。

他にも稲垣足穂氏の「一千一秒物語」、「7つの音楽より」のシリーズの絵が展示されていました。

有元氏の絵を拝見していると、音楽が聞こえるような不思議な感覚がします。どの曲とは挙げられないですが、静かなクラシックの曲をイメージしています。

お茶席は、釜鳴り、茶筅の音、足袋の摺り足といった音を大切にするので、音楽を流すことはできないですが、有元氏の絵を床に掛けて、静かな音楽をテーマにした茶会を実現してみたいとふと思いました。

 

展覧会情報

名称
有元利夫版画展
会場
Bunkamura BoxGallery(東京都渋谷区)
会期
2013年6月11日~2013年6月20日
公式サイト
http://www.bunkamura.co.jp/

『定本 樂歴代』出版記念 樂歴代名品展

樂歴代とニューフェイス

樂美術館

樂美術館

京都・樂美術館にて「『定本 樂歴代』出版記念 樂歴代名品展」を拝見しました。

樂美術館は1978年に樂家十四代覚入(大正7(1918)~昭和55(1980))によって設立され、樂家に伝わる樂歴代を中心にした茶道工芸美術品や古文書等を収蔵しています。

今回は、『定本 樂歴代』出版記念ということで樂歴代が手本として学んだ樂家伝来の茶碗を展示していました。

一階には樂歴代の作品が並びます。入り口の正面のショーケース、通常は樂吉左衞門氏の作品が置かれることが多いのですが、今回は吉左衞門氏のご長男の篤人氏のたっぷりとした赤樂茶碗が置かれていました。篤人氏は次代後継者としての名跡「惣吉」を名乗っています。

展示のキャプションには吉左衞門氏の言葉で「伝えることは教えないこと。自分自身で長次郎茶碗と向き合い、歴代の歩んだ伝統を検証すること。そこから自分自身の創造を立ち上げること。」とあり、篤人氏のこれからの道のりの厳しさに思いを馳せました。

一連のショーケースには二代常慶の香炉釉井戸形茶碗から三代道入赤樂筒茶碗「破れノンコウ」と続き、十四代覚入赤樂「樹影」、十五代吉左衞門の赤樂「花仙」まで並べられていました。

これらの茶碗を拝見すれば、各歴代の特徴を学ぶことができそうです。

中二階に上がると端午の節句ということか武者人形に迎えられ、ここには茶碗でなく、宗慶の水指や一入・了入らの花入や長入の香合が展示されていました。

二階がメインの展示となり、一方のケースには、長次郎 黒樂茶碗「万代屋黒」 と 本阿弥光悦 白樂筒茶碗「冠雪」が、もう片方のケースには、十五代吉左衞門 黒樂茶碗「秋菊」が向かい合う形で展示されていました。

侘びの極みの長次郎「万代屋黒」、自由闊達の光悦「冠雪」、そして長次郎の侘びと光悦の革新性を兼ね備えた吉左衞門氏「秋菊」とどれも素晴らしくしばし見入ってしまいました。

そして今回の展覧会の大きなニュースは、十六人目の樂歴代になるであろう、樂篤人氏の出品です。(実際に拝見したのは初めてです)久々の新メンバーの参画で、フレッシュで新しい感性の作品を期待しています。

 

展覧会情報

樂美術館

名称
『定本 樂歴代』出版記念 樂歴代名品展
会場
樂美術館(京都市上京区)
会期
2013年3月9日~2013年7月7日
公式サイト
http://www.raku-yaki.or.jp/

海田曲巷・上田晶子「茶かごと茶杓」展

作家を超えた現代の数寄者

海田曲巷・上田晶子「茶かごと茶杓」展

「茶かごと茶杓」展 案内はがき

DEE’S HALLにて、海田曲巷・上田晶子「茶かごと茶杓」展を拝見してきました。

3年ぶりのDEE’S HALLでの個展で、展示された作品は、茶籠のセット、茶籠と組み込む茶道具、茶杓、竹花入、帛紗等です。

茶籠のセットは、茶碗・茶杓・茶器・振出・茶筅・茶器・・と小降りの茶籠によくこんなに入るものかとどれもため息が出てしまうような取り合わせです。

茶籠用の道具はどれも小さく愛らしくままごとのようですが、どれも立派な茶道具です。

海田氏は、茶杓師として活躍され、長くお茶に親しむ中で古美術を茶道具として取り合わせて来ました。その見立て力は素晴らしく、和物を始め、古代中国のもの近代ヨーロッパのものとまさに活殺自在で、海田氏の茶席に入るたびに、なるほど!これは!と驚きつつ納得しています。

また海田氏は茶籠への思い入れがあり、最初は古美術の茶籠を探して修理していましたが、段々良い茶籠が見つからなくなって、(ここが凄いところですが)自分で作ってしまえと作り始めてしまいます。

茶杓も茶籠もどちらも竹を使いますが、作り方がかなり異なっており、よくぞお作りになったと驚きました。海田さんの茶籠は、きゅっと締まった小さめで時代も付けられ(方法は秘密)、まるで唐物のようで、手にすると感激致します。

海田氏の筆による軸と愛らしい展示品の数々

海田氏の筆による軸と愛らしい展示品の数々

海田氏はさらに、軸の書を書き、茶碗や振出を焼き、漆で絵を描き、竹で茶器や茶筅筒を編み、もちろん茶杓を削り・・とオールマイティな作家であるだけでなく、取り合わせと見立てのセンスの良さとお人柄で、現代の数寄者であると思っています。

今回、海田氏の作品の他に心惹かれたのは、升たか氏の色絵の振出で、ペルシャのような文様で本当に愛らしくて、一目で気に入ってしまいました。

 

展覧会情報

名称
海田曲巷・上田晶子「茶かごと茶杓」展
会場
DEE’S HALL(東京都渋谷区)
会期
2013年6月11日~2013年6月18日
公式サイト
http://www.dees-hall.com/

生誕140周年記念 川合玉堂展

玉堂とデルフト眺望

展覧会場内

展覧会場内

山種美術館の「特別展 生誕140周年記念 川合玉堂」に行って参りました。
日本画の展覧会はあまり行かないのですが、今回はブロガー内覧会の企画がありまして、その機会にお伺いすることにしました。

会場の山種美術館は、山種証券創立者の山崎種二氏(明治26(1893)~昭和58(1983))が1966年に同氏と山種証券のコレクションを保存・管理するために開館しました。日本橋兜町から千代田区三番町を経て、2009年に現在の渋谷区広尾に引っ越ししています。

川合玉堂氏(明治6(1873)~昭和32(1857))は、愛知に生まれ、岐阜で育った日本画家で、日本の四季の山河を美しい墨線と彩色で描く風景画が有名です。また東京美術学校(現東京藝術大学)の教授も務め、日本画壇の中心的存在の一人でした。

種二氏は玉堂氏と親交があることから、71点もの作品を所有し、今回初めて前後期に分けて全点を展示します。さらに玉堂美術館・五島美術館等や個人蔵の作品も揃い、関東では三十年ぶりの個展とのことです。

玉堂15歳のときの写生帖

玉堂15歳のときの写生帖

会場に入りますと、まず最初期の写生帖が展示されています。なでしこやカワセミが細かく丁寧に描かれており、とても15歳の作品とは思えないです。まさに「栴檀は双葉より芳し」です。

今回は、館長の山崎妙子氏のギャラリートークを聞きながら拝見することができ、楽しく作品の理解をすることができました。

作品は日本の風景画を中心にしており、今では見ることが叶わない日本の美しい自然の景色や人の営みもあります。

最初の写生帖から、22歳の「鵜飼」、「南江帰漁」、「湖村春晴」・・とに玉堂氏の作品を拝見していきました。玉堂氏の絵は、風景の中で小さく人が描かれている場合が多いです。

幾つかそういう絵を拝見して、ふと、フェルメールの「デルフト眺望」を思い出しました。「デルフト眺望」では、デルフトのスヒー港にて立ち止まって話をしている人々が描かれています。

さらに玉堂氏の絵を拝見していてフェルメールとの違いに気がつきました。玉堂氏に描かれた人々は、皆何かを営んでいるのです。舟を漕ぐ人、馬を引いて荷物を運んでいる人、稲刈りをしている人、荷物の入った籠を背負って歩いている人・・皆何らか働いています。

その描き方を見て、玉堂氏の、営む人々への尊敬と優しい眼差しを感じました。

絵の中の人物拡大

絵の中の人物を拡大

日本画をじっくりと拝見したのはほとんど初めてで、小さな人物のように本当に繊細に丁寧に描かれていると感動し、今回の大きな収穫でした。

特にここ山種美術館では、厚さ15cmのアクリルケースで展示されており、顔を近づけてアップで拝見できまして、日本画にぴったりと納得しました。

あと印象に強く残りましたのは、「湖畔暮雪」で、これは雪の白さを表すのに胡粉等を使わず、絹本そのままの白地としています。これも間近で拝見して絹地の美しさを堪能しました。

三井記念美術館所蔵の円山応挙作「雪松図屏風」と同じ手法と館長よりお聞きしました。

日本画好きな方はもちろん、日本画や川合玉堂の作品をあまり見たことがない方にも、この機会に当展覧会をご覧いただくことをお勧め致します。

内覧会の後、一階のカフェで川合玉堂展特製和菓子をいただきました。5種類のうち、「さおとめ」と「しろうさぎ」をどちらも美味しくいただきました。こちらもお勧めします。

「湖畔暮雪」

「湖畔暮雪」

 

展覧会にちなんだ和菓子

展覧会にちなんだ和菓子



※今回は内覧会の為、主催者の許可を得て写真撮影しております。通常は撮影禁止です。

 

展覧会情報

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名称
特別展 生誕140周年記念 川合玉堂 ―日本のふるさと・日本のこころ―
会場
山種美術館(東京都渋谷区)
会期
2013年6月8日~2013年8月4日
公式サイト
http://www.yamatane-museum.jp/

やきものに親しむⅩ 古染付と祥瑞展

中国に求めた日本の美

出光美術館

出光美術館

出光美術館で、「やきものに親しむⅩ 古染付と祥瑞」展を拝見してきました。

出光美術館は出光興産創業者の、出光佐三氏(明治18(1885)~昭和56(1981))のコレクションを公開するためのもので、昭和41年(1966)に創立され、仙がい、工芸品・陶磁器・茶道具、ルオー等がコレクションの中心です。

今回は「日本人の愛した<青>の茶陶」という副題のもとに、古染付と祥瑞を取り上げています。

では古染付と祥瑞とはどのような器でしょうか。

今回は、古染付:中国天啓時代(1621~27)、祥瑞:崇禎時代(1628~44)のころに景徳鎮民窯で作られ、日本に輸出された青花(染付)と説明されていました。青花(染付)とは白地に呉須(コバルト)で文様を描いた磁器です。
両者はいずれも染付ですが、実際に作品を拝見しますと、作風がだいぶ違うことが分かります。

古染付

古染付の展示は、水指と花生から始まりました。

「古染付葡萄棚文水指」、「古染付高砂花生」と現在でも写しが作られるほどオーソドックスな器が並びます。

続いて手付鉢・水注、皿と鉢と続きます。
ここで興味を惹いたのが「古染付周茂淑愛蓮図皿」です。周茂淑が釣り糸を垂れているちょっと愛嬌のある図柄で、思わず微笑んでしまいます。

古染付は、ゆるい文様、ユーモラスな漫画のような絵が特徴的のようです。
展示されている向付は、ウサギ、鶏、馬、タケノコ等がありまして、どれもひょうげた図柄で味がありました。

釣りをしている周茂淑は11世紀の中国の有名な文人で、皿の他に有名な形物香合の「古染付周茂淑文香合」(西二段目四位)もありました。

また形物香合として「古染付手付香合 銘隅田川」(西四段目十四位)も展示されていました。なぜ中国の香合に「隅田川」と名付けたのか調べたところ、柳と屋形船の意匠と橋に見立てたハジキ(弦状の摘み)の形から名付けたとのことです。

ただ今回展示されていた香合は柳と人のみで、屋形船は描かれていませんでしたが、ハジキが付いており、「隅田川」と名付けたと思います。

祥瑞

祥瑞は鉢・皿・徳利から始まりました。古染付と比較して、緻密・精巧・丁寧で、作品によってはみっしりと描かれて息が詰まるようでした。

展示している中で有名なものは、「祥瑞蜜柑水指」で堂々としてお茶席の主役になれる資格があると思います。

形物香合は「祥瑞立瓜香合」(西二段目八位)「祥瑞茄子形香合」(三段目九位)がありました。
古染付では見かけなかった茶碗があり、こちらは精密な絵柄で山水文や松竹梅文が描かれていました。その中では「祥瑞遊舟文洲浜形茶碗」の形と図柄の美しさに心惹かれました。

その他に複数の色を使用した色絵の作品もありましたが、染付と比較しますと今一つ魅力が及ばない気がしました。

古染付も祥瑞も日本への輸出が多かったようで、中国で作られたものの、白にコバルトブルーは日本の美だな納得して展覧会を後にしました。

 

展覧会情報

古染付と祥瑞

名称
やきものに親しむⅩ 古染付と祥瑞
会場
出光美術館(東京都千代田区)
会期
2013年5月25日~2013年6月30日
公式サイト
http://www.idemitsu.co.jp/museum/

大西家の近代-浄長・浄中・浄心-展

華やかな近代の茶の湯釜

大西清右衛門美術館

大西清右衛門美術館

大西清右衛門美術館にて「大西家の近代 -浄長・浄中・浄心-」を拝見してきました。

大西清右衛門氏のお父様、お祖父様、ひいお祖父様と三代の作品の展覧会です。初代浄林(1594~1682)から当代までのおよそ四百年に渡っての作品が並ぶことが多いですが、今回は近年百年ほどの期間の作品です。
そのため侘びた風情よりもまだ新しく華やかな作品が多いです。

十三代浄長は慶応二年(1866年)に生まれ、幼少の頃に父と祖父亡くした逆境の中、明治の激動期に制作を続け、大正十五年(1926年)に浄中に代を譲ります。

十四代浄中は、明治二十一年(1888年)に生まれ、茶事を好み、磊落で愉快な性格から終世人々と楽しく交わったとのことですが、度重なる戦乱の余波により制作の中断を余儀なくされ、本格的に制作を再開できたのは昭和二十年代末の晩年の五年ほどでした。

十五代浄心は大正十三年(1924年)に生まれ、昭和三十五年(1960年)に代を継ぎ、時流を汲んだ華やかな作品を制作しました。

主な展示作品は次のとおりです。

浄長作 雪花釜
雪と花の地文の端正な釜で近代的なデザインと感じました。この釜は、昭和九年(1934年)に帝展への入選を果たしました。当時の茶道界では皆が喜び、表千家の家元惺斎からは銘「萬々歳」の茶杓、藪内十一代家元・透月斎から銘「雪花」の茶杓が贈られたとのことです。

浄中作 近衛文麿公好 三番叟釜
華族で首相にもなった近衛文麿公が好んだ釜で、正面に三番叟の舞、後ろに「有慶」と文麿公の花押が鋳込まれています。鐶付は珍しい鴟尾の形をしており、明るく優雅な印象です。

浄心作 鵬雲斎好 唐金鳳凰風炉 累座富士釜添
風炉に金色の鳳凰が描かれ、とても華やかです。浄心は他にも鐶付が海老という華やかな海老ノ釜が展示されていました。

三代それぞれ日本画家の下絵を用いた次のような作品があり、いずれも絵画的な美しい釜でした。

浄長作・・橋本関雪下絵 天女地文丸釜
浄中作・・竹内栖鳳下絵 笹地文尻張釜
浄心作・・東山魁夷下絵 松地文真形 銘巌松

展覧会には他にも、歴代が制作した花入・茶杓・火箸・蓋置・燗鍋といった釜以外の茶道具が並べられ、珍しいものでは浄長の鉄スキ焼鍋もありました。

当日は、美術館のお茶室で京釜特別鑑賞茶会が開催されていました。

美術館のお茶会の特色は、清右衛門氏が自ら点前されることと、席中で歴史ある釜を実際に素手で触って拝見できることです。他にはなかなか経験できないことで、釜の作り手である清右衛門氏の話も興味深く、ぜひお勧め致します。

今回の道具の取り合わせです。

掛物・・即中斎筆 春暉瑞色鮮
花入・・南鐐夕顔彫八角瓢形 十五代大西浄心作
釜 ・・花筏車軸 十五代大西浄心作
水指・・祥瑞写蜜柑 十六代永樂即全作
茶器・・惺斎好 春野蒔絵金林寺 同在判 十一代中村元斎宗哲作
茶碗・・赤 九代樂了入作
茶杓・・淡々斎作 銘釣竿

また点心席では、熊魚菴の点心とともに、五種類の燗鍋が出されました。燗鍋によってお酒の味が違うとの評判で、飲み比べをされる参加者もいて、リラックスした席となりました。

 

展覧会情報

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名称
平成二十五年春季企画展
「大西家の近代 -浄長・浄中・浄心-」
会場
大西清右衛門美術館(京都市中京区)
会期
2013年3月5日~2013年6月30日
公式サイト
http://www.seiwemon-museum.com/

生誕四百五十年記念 細川三斎の茶展

大切に伝える思い

永青文庫

永青文庫

永青文庫の「生誕四百五十年記念 細川三斎の茶」展を観て来ました。

永青文庫は細川家の歴史資料や美術品等の文化財を管理保存するために、昭和25年(1950年)に細川家十六代護立氏(明治16(1883)~昭和45(1970))が創立されました。

建物は細川家の昭和初期の事務所を移築したものです。

椿山荘の隣に位置し、うっそうとした緑の中にあり、新江戸川公園を含めたかつての広大な敷地が偲ばれます。

建物の印象は古い洋館で、展覧室のみかと思いましたら、廊下へ部屋に本棚があり、洋書や漢籍がぎっしり埋まっていました。
洋書は、歴史書の他にバイロンの詩集やイソップの本を見かけました。

展示室は、居室を改造したもので、まるで細川家にお邪魔してコレクションを拝見するような舞台設定です。

今回の展示は「細川三斎の茶」ということで茶道具が中心です。

主な展示物は次のとおりです。

唐物茶入 利休尻ふくら
黒樂茶碗 銘おとごぜ 長次郎作
茶杓 銘ゆがみ 千利休作
茶杓 銘けつりそこなひ 細川三斎作
茶杓 銘さかひ 古田織部作
茶杓 銘安禅寺 小堀遠州作

珍しいものでは千利休作の柄杓がありました。柄杓は茶筅と同じように消耗品で後世に残ることは極めて少なく、初めて拝見しました。

豊臣秀吉により堺に蟄居を命じられた利休を、三斎と織部が危険を冒して見送るほど固い絆の千利休、細川三斎、古田織部の茶杓が並べられていて、記憶に残りました。

お茶の師(利休)と兄弟弟子(三斎・織部)、茶人の思いが最も込められた茶杓になって四百年後に集まることができたと感じました。

他の美術館では人の手を経て伝えられた茶道具が多いのですが、ここでは細川家ご当主が同時代の方々から受け取った茶道具を大切に現在まで伝えて来たという印象です。

貴重な美術館だと思います。

 

展覧会情報

永青文庫「生誕四百五十年記念 細川三斎の茶」展

名称
春季展示「細川三斎の茶」
会場
永青文庫美術館(東京都文京区)
会期
2013年3月30日~2013年6月23日
公式サイト
http://www.eiseibunko.com/

茶道具いろは展

名品の入口

藤田美術館

藤田美術館

藤田美術館の「茶道具いろは」展を拝見して参りました。

藤田美術館は、明治に藤田財閥を興した藤田傳三郎氏(天保12(1841)~大正元(1912))、嫡子平太郎氏(明治2(1869)~昭和15(1940))、次男徳二郎氏(明治13(1880)~昭和10(1935))のコレクションで、昭和269年(1954)に開館しました。

藤田家の過去の壮大な敷地は、公園と太閤閣という施設になり、現在はごく一部を美術館として使用しています。

美術館には茶室と事務の建物があり、展示室は藤田家の蔵を改造したものです。太平洋戦争で空襲を受けましたが、この蔵が残り、名品の数々は無事に現在まで伝えられています。

藤田美術館は、収蔵品5000点、うち国宝9点、重要文化財50点と日本屈指の美術品を保持した大美術館です。他の美術館と比べてあまり目立たないようですが、ぜひ皆さまご覧いただきますようお勧め致します。

今回は「茶道具いろは」展ということで、名品中の名品ではなく名品の入口を案内したいという意図があるようです。

二階から拝見しますと、まず長次郎の黒樂茶碗、銘「まこも」が箱や仕覆といった次第とともに展示されていました。

「まこも」は「あやめ」と兄弟茶碗で、あやめよりも侘びているため、まこも(水辺の植物であやめほど華やかでない)と名付けられたとのことです。

外見は、長次郎の「大黒」にようにたっぷりとしたお茶碗で、一番内側が白木の箱で、その外に黒塗の箱、さらに白木の箱が二つと四重箱で保持していた方々がいかに大事にしてきたがよく分かります。

「まこも」の隣には対比したように長次郎の赤樂茶碗、銘「恩城寺」が展示されており、黒の侘びに比べて華やかさがありました。

入口とはいえ名品の数々です。

・黒漆中棗 羽田五郎作
室町時代の茶人村田珠光の注文により、初めて抹茶を入れる棗を制作しました。五百年近く経ているようで、漆が透けて赤みを帯びていました。

・凡鳥棗 初代中村宗哲作
藤村庸軒の好みで制作した棗で、大振りで蓋に桐の文様が描かれています。凡鳥とは鳳凰のことで、鳳凰は桐に住むことからこの文様になりました。凡鳥棗は現代も写しが作られている有名な棗で、初めて本歌を拝見しました。

・本手利休斗々屋茶碗
16世紀に朝鮮半島で作られた器で、日本で茶碗として見立てられて、千利休、古田織部、小堀遠州と大茶人に伝わった名品です。織部が仕覆だけ残して手放した後、遠州が手に入れ、織部が遠州に仕覆を譲ったというエピソードもあります。
斗々屋茶碗は直線的な形が多いですが、この茶碗は柔らかみのある端反った形で色も枇杷色と優しくとても美しいです。抹茶の緑が映えるお茶碗です。

その他に地味であまり目立たない、初代飛来一閑作の黒漆茶入とときん香合に惹かれました。どちらも一閑張でこちらはざっくりと侘びています。ときん香合は山伏が頭につける頭襟(ときん)から考えたもので、今も当代の一閑によって写され作られています。シンプルで素晴らしいデザインです。

藤田美術館は、来年平成26年(2014)の春と秋に、藤田美術館60周年記念展開催を予定しており、どのような名品が拝見できるか今から楽しみです。

 

展覧会情報

茶道具いろは

名称
平成25年春季展『茶道具いろは』
会場
藤田美術館(大阪市都島区)
会期
2013年3月9日~2013年6月16日
公式サイト
http://www.city.okayama.jp/museum/fujita/

茶の湯の漆器 利休と不昧のデザイン展

」華やかさと侘び

湯木美術館

湯木美術館

大阪の湯木美術館にて「茶の湯の漆器 利休と不昧のデザイン」を拝見しました。

湯木美術館は、懐石料理「吉兆」の湯木貞一(明治34(1901)~平成9(1997))により昭和63年(1988年)に開館しました。多くの美術館が旧財閥や大会社の社長によって設立したことが多い中、湯木貞一という料理店の店主が設立したというのは珍しいことです。

三十六歌仙の軸「在原業平」や唐物茶入「富士山」「紹鴎茄子(一名みをつくし)」、志野茶碗「広沢」等々趣味の良い道具ばかりで、本当によく蒐集されたと感心し、思わずため息をついてしまいます。

また美術館の一階には吉兆「正月屋」という和食レストランがあり、湯木氏が美術館に来たお客様がリーズナブルに吉兆の懐石料理を楽しんでもらおうと作られたお店です。ここではゆったりとお値打ちの懐石がいただけるお勧めのお店です。

今期は、千利休と松平不昧が好んだものを中心とした漆器の茶道具の展覧会です。
漆器の茶道具の種類は多く、点前道具として棗、水指を始め、炭道具は香合、炉縁、懐石道具は四つ碗、折敷、汁椀、小吸物碗、引盃、縁高等々あり、また珍しいところでは茶碗、茶杓もあるというようにバラエティに富んでいて釜以外のほとんどの茶道具がありそうです。

今回の展示のポイントは「華やかさと侘び」と感じました。蒔絵の文様の華やかな美しさと、無地の真塗の詫びた美しさを、次のように対比して展示していました。

華やかな蒔絵

  杜若蒔絵小棗・・伊勢物語九段東下りを描いたぎゅっと詰まった美
  住吉蒔絵平棗 山本春正作・・金蒔絵にちょっとしぶい銀をあしらって
  片輪車蒔絵香合 出雲松平家伝来

侘びた真塗

  黒大棗 山科宗甫在判
  黒小棗・又隠棗 千宗旦在判 千家名物
  青貝心経香合 黒無地に般若心経「心経曰 無限耳鼻舌 身意」文字

蒔絵は美しさがぎゅっと詰まっていて、緻密な絵を見ていますと飽きません。
片や真塗は凛とした美しさがあり、千利休が濃茶に用いた気持ちも納得できます。

展示室の奥の大きなケースでは、折敷、縁高、椀、盆等々と懐石道具を中心に展示されていました。
ここで湯木氏が料理人であったことを思いだし、懐石道具には思い入れも多かったのではと思いました。

あと茶室を模したケースもあり、季節の取り合わせを展示することが多いのですが、今回は十三代飛来一閑作の将棋盤と樂惺入作の将棋駒といった珍しい作品が並べられていました。
(ケースとはいえ、本格的な茶室として作るようにと湯木氏が指示したと聞いたことがあります)

 

展覧会情報

茶の湯の漆器展

名称
平成25年 春季特別展「茶の湯の漆器―利休と不昧のデザイン―」
会場
湯木美術館(大阪市中央区)
会期
2013年4月2日~2013年6月9日
公式サイト
http://www.yuki-museum.or.jp/

北村美術館「平成二十五年茶道具取合展 春興の茶」

数寄者のお茶会

北村美術館

北村美術館

北村美術館で「春興の茶」展を拝見してきました。

北村美術館は代々林業を営む北村家の数寄者北村謹次郎氏(明治37(1904)~平成3(1991))が蒐集した古美術品を展示する美術館で、昭和50年(1975年)に設立されました。

この美術館の特徴は、展示を茶事・茶会に見立てて寄付から本席の流れを展示で表現しています。さらに凝っているのは展示目録が会記形式で、奉書ではないもののきちんと正方形に折ってあります。

今回の見所は、花入の枇杷竹文髹漆瓶子、乾山の香合、斗々屋茶碗です。

瓶子花入は展覧会のチラシにも取り上げられたもので、思ったより大振りな堂々としたものです。漆がちょうどよくかすれて時代を感じます。さてどのような花を入れるのかと悩みました。

香合は乾山作の槍梅文です。松平不昧の箱があり、雲州蔵帳にも載る名品で、梅が愛らしくとても綺麗です。
斗々屋茶碗は口作り(茶碗の縁)がぴんと緊張感があり、初夏の雰囲気です。

ガラスケースに銘「白菊」の茶碗の箱が展示しており、外箱は遠州流先代家元の小堀宗慶宗匠で、ところがどこにも「白菊」が見つからないのです。館員にお尋ねしたところ、実は展示してある斗々屋茶碗の箱で、今回は「秋を連想させる銘なのであえて会記に記載しませんでした。秋の展示でしたら書くのですが。」とのことで、そこまで配慮するお茶の奥深さに驚嘆を覚えました。

展覧の拝見が終わって、まるで数寄者のお茶会に参加できたような感動を覚えました。
こちらの展覧会も能衣装が展示されており、北村謹次郎氏も能を嗜んでいたようです。

また美術館の隣には「四君子苑」という数寄屋造りの旧北村邸の建物があり、春と秋の一定期間に公開されます。
(以前、細川護煕氏は四君子苑で自作の仏像の展覧会を行いました)

館員から「建物・茶室も素敵だが、石の美術品が素晴らしく、植木屋さんや興味のある方が沢山見学しています。」と聞きました。ご興味のある方にお勧め致します。

展覧会情報

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名称
2013年春期 茶道具取合展「春興の茶」
会場
北村美術館(京都市上京区)
会期
2013年3月12日~2013年6月9日
公式サイト
http://kitamura-museum.com/