華やかな近代の茶の湯釜
大西清右衛門美術館にて「大西家の近代 -浄長・浄中・浄心-」を拝見してきました。
大西清右衛門氏のお父様、お祖父様、ひいお祖父様と三代の作品の展覧会です。初代浄林(1594~1682)から当代までのおよそ四百年に渡っての作品が並ぶことが多いですが、今回は近年百年ほどの期間の作品です。
そのため侘びた風情よりもまだ新しく華やかな作品が多いです。
十三代浄長は慶応二年(1866年)に生まれ、幼少の頃に父と祖父亡くした逆境の中、明治の激動期に制作を続け、大正十五年(1926年)に浄中に代を譲ります。
十四代浄中は、明治二十一年(1888年)に生まれ、茶事を好み、磊落で愉快な性格から終世人々と楽しく交わったとのことですが、度重なる戦乱の余波により制作の中断を余儀なくされ、本格的に制作を再開できたのは昭和二十年代末の晩年の五年ほどでした。
十五代浄心は大正十三年(1924年)に生まれ、昭和三十五年(1960年)に代を継ぎ、時流を汲んだ華やかな作品を制作しました。
主な展示作品は次のとおりです。
浄長作 雪花釜
雪と花の地文の端正な釜で近代的なデザインと感じました。この釜は、昭和九年(1934年)に帝展への入選を果たしました。当時の茶道界では皆が喜び、表千家の家元惺斎からは銘「萬々歳」の茶杓、藪内十一代家元・透月斎から銘「雪花」の茶杓が贈られたとのことです。
浄中作 近衛文麿公好 三番叟釜
華族で首相にもなった近衛文麿公が好んだ釜で、正面に三番叟の舞、後ろに「有慶」と文麿公の花押が鋳込まれています。鐶付は珍しい鴟尾の形をしており、明るく優雅な印象です。
浄心作 鵬雲斎好 唐金鳳凰風炉 累座富士釜添
風炉に金色の鳳凰が描かれ、とても華やかです。浄心は他にも鐶付が海老という華やかな海老ノ釜が展示されていました。
三代それぞれ日本画家の下絵を用いた次のような作品があり、いずれも絵画的な美しい釜でした。
浄長作・・橋本関雪下絵 天女地文丸釜
浄中作・・竹内栖鳳下絵 笹地文尻張釜
浄心作・・東山魁夷下絵 松地文真形 銘巌松
展覧会には他にも、歴代が制作した花入・茶杓・火箸・蓋置・燗鍋といった釜以外の茶道具が並べられ、珍しいものでは浄長の鉄スキ焼鍋もありました。
当日は、美術館のお茶室で京釜特別鑑賞茶会が開催されていました。
美術館のお茶会の特色は、清右衛門氏が自ら点前されることと、席中で歴史ある釜を実際に素手で触って拝見できることです。他にはなかなか経験できないことで、釜の作り手である清右衛門氏の話も興味深く、ぜひお勧め致します。
今回の道具の取り合わせです。
掛物・・即中斎筆 春暉瑞色鮮
花入・・南鐐夕顔彫八角瓢形 十五代大西浄心作
釜 ・・花筏車軸 十五代大西浄心作
水指・・祥瑞写蜜柑 十六代永樂即全作
茶器・・惺斎好 春野蒔絵金林寺 同在判 十一代中村元斎宗哲作
茶碗・・赤 九代樂了入作
茶杓・・淡々斎作 銘釣竿
また点心席では、熊魚菴の点心とともに、五種類の燗鍋が出されました。燗鍋によってお酒の味が違うとの評判で、飲み比べをされる参加者もいて、リラックスした席となりました。
展覧会情報
- 名称
- 平成二十五年春季企画展
- 「大西家の近代 -浄長・浄中・浄心-」
- 会場
- 大西清右衛門美術館(京都市中京区)
- 会期
- 2013年3月5日~2013年6月30日
- 公式サイト
- http://www.seiwemon-museum.com/