天上天下自由自在
三井記念美術館にて「北大路魯山人の美 和食の天才」展を拝見して参りました。
北大路魯山人(1883-1959)は、書、篆刻、陶芸、漆芸・・とさまざまな工芸に才能を発揮し、さらに美食家としても有名です。
今回は、陶磁器を中心に書や絵画、漆器など魯山人が手掛けた独創的な作品を紹介しています。
入りますと、「青織部籠形花器」と「志野若草文四方平向」が出迎えてくれます。
前者は織部釉で後者は志野で色や質感は桃山陶磁を思わせるものです。ところが形は籠で編んだような花入、平たい向付と桃山時代にはないもので、それぞれ特徴を捉えて別の形にしています。
そう気がつきますと、金襴手や織部、志野、染付と時代のものに倣っていながら、デザインや大きさは魯山人独自のものが多く、しかも使いやすそうで、魯山人に凄さを改めて実感しました。
心に残りました主な作品は次のとおりです。
金襴手壺・・金襴手の茶碗や鉢は多くありまして、これは壺の全面が金襴手という華やかなものです
銀三彩輪花透鉢・・銀彩の上に黄・緑の色を置いていて、古というよりも現代アートのようです。備前や信楽の焼き損じたものを割ってしまうのではなく、銀彩を施してさらに焼くという独自の方法で生み出されました。
織部蟹絵平鉢・・蟹の絵の作品は他にも何点かあり、美食家の魯山人は蟹好きではと想像しました。
織部誰ヶ袖向付・・今回の作品群の中で大きさもほどよく折敷にぴったりと収まりそうです。桃山にありそうでないデザインです。
色絵金彩龍田川向付・・一見乾山作かなと思いますが、色変わりしているところは魯山人のオリジナルです。
織部長板鉢・・雰囲気は桃山の織部ですが長板は魯山人の発案で料理を盛ってみたくなります。
一閑塗日月椀・・金(日)と銀(月)の丸い箔を交互に貼り付けている有名な椀で、江戸時代にありそうですが、実は魯山人オリジナルのモダンなデザインです。戦時中に火が使えない状況になって陶器を焼くことができず漆器制作を行ったということです。
長閑塗瓢文椀・・黒塗の椀に朱で瓢をざっくりと描いています。長閑とは江戸時代末期の京都の塗師、佐野長寛(1791-1863年)に因んだもので、常に新意匠を試みたと伝えられ、現代にも様々なデザインが伝わっています。
雲錦鉢・・乾山や道八も作っています桜(雲)と紅葉(錦)文様の鉢です。ただしサイズはだいぶ大きく、金彩も施しています。
赤絵汁次・・大振りな作品が多い中で愛らしい一品です。
料理盛付帖・・鉢の使い方をスケッチしたもので、果物、料理、菓子、刺花、盛肉と一器多様の使い方が描かれて、わくわく楽しくなりました。
信楽灰被大壺・・口を欠いて焼き上げていました。
鉄製透置行燈・・鉄でできた行灯で、ここまでデザインしていたかと驚きました。
今回は、懐石道具以外のお茶道具は展示されておらず、少し物足りないと思ったものの、ほとんどが食に関する器で、今までの魯山人展より身近に感じられました。
書や絵画や絵付けは魯山人自身が行ったものの、陶磁器焼いたり木を挽いて漆を塗るのは職人に任したと思われます。
元のデザインを考えた魯山人の美的センスは抜群で、美を自由自在に扱っていると感じます。
さらに加えて多くの人を巻き込み作品を作り上げたプロデュース力は強力で、この両者を兼ね備えた芸術家はなかなかおらず、近現代では比肩する人はおらず、本阿弥光悦以来ではないかと思います。
●展覧会情報
北大路魯山人の美 和食の天才
三井記念美術館(東京都中央区)
2016年4月12日~2016年6月26日
http://www.mitsui-museum.jp/index.html