いちわん

~ 楽在一碗中 ~
お茶の本

鐵技 Tetsugi 

朽ちゆく鐵は美を宿す

鐵技 Tetsugi

「鐵技」は、2014年1月に美術館「えき」KYOTOで開催された展覧会「大西清右衛門襲名20周年記念 大西清右衛門美術館開館15周年記念 御釜師400年の仕事 大西清右衛門 茶の湯釜の世界」にちなみまして、千家十職の大西清右衛門氏が著した茶の湯釜の本です。

内容は、「茶の湯釜とは」に始まり、大西家歴代の作品、釜の見どころといった釜の造形美、「現代に生きる釜師」で現在と未来について語っています。

茶の湯釜全般の勉強ができ、釜を中心とした美しい写真が満載で、写真を眺めるだけでも楽しめます。
 

特に印象に残りましたのは「朽ちの美」ということです。

茶の湯釜は、

「鉄という朽ち果てる宿命を負った素材に、これほどまでに手をかけた工芸品は他に類を見ない」

とあり、さらに

「それは過ぎゆくものに共感を覚え、朽ちゆくものに美を見出すという日本人の美意識があってこそ」

という箇所です。

茶の湯釜は使っていくことにより錆びますが手入れすることにより味が生まれ、熱にさらされるて痛んだ底を割って新たに底を付け替えることにより尾垂釜として使うことというのは、日本ならではと確かに思います。

 

それから、この本で初めて知りましたのは、品川寺の大梵鐘が大西家二代浄清が作ったということです。

徳川三代(家康、秀忠、家光)の供養のために四代家綱により寄進されたこの梵鐘は、慶応三年(1867)のパリ万博でヨーロッパに渡り、紆余曲折の経緯があって、昭和6年(1931)に品川寺に帰還しました。

本のタイトルになりました「鐵技」は、表千家七代如心斎より贈られた軸にあり、大西家に伝来しています。

 
【参考サイト】

 

書籍情報

タイトル
鐵技 Tetsugi
著者
大西清右衛門
出版社
マリア書房
オンライン購入
マリア書房オンラインショップでこの本を見る

*Amazonでは現在のところ取り扱いが無いようです。(2014.4.10現在)

わかりやすい高麗茶碗のはなし

高麗茶碗の勉強に最適

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作者は、京都の野村美術館の館長で、今までにも高麗茶碗の本を出版されたことがあり、雑誌「淡交」に書いた連載記事をまとめたのがこの本です。

内容は、高麗茶碗と何かという「高麗茶碗のあらまし」から始まり、
「分類で知る高麗茶碗」では後述するように細かく分類して説明し、
「高麗茶碗の写し」では、取り上げることが少ない、日韓現代作家を含めた写しについて書いています。

分類は次のとおりで、どれも謂れや特徴がカラー写真とともに丁寧に分かりやすく解説されています。

祭器系  ・・井戸、呉器
青磁系  ・・雲鶴と狂言袴、伊羅保と柿の蔕
白磁系  ・・堅手と熊川、雨漏と玉子手、割高台と金海
粉青系  ・・三島、刷毛目と粉引、斗々屋と蕎麦
借用窯系 ・・彫三島と立鶴、御所丸と猫掻手
倭館窯系 ・・御本

ここで、「借用窯」と「倭館窯」は、いずれも対馬藩が朝鮮半島の釜山に作った倭館で焼いたもので、今までは倭館窯でひとくくりにされていましたが、著者は、倭館窯のうち、専用ではなく高麗向けの窯を使用した場合は「借用窯」、日本向けの茶碗専用の窯を「倭館窯」と分類しています。

高麗茶碗の研究は、現在でも進んでいまして、例えば分類に挙げた「借用窯」も新しい概念で、他にも、茶碗の産地といった新しい研究結果が反映されています。

また「韓国の茶文化と茶碗」、「なぜ茶の湯では高麗茶碗が好まれるか」といった興味深いコラムも盛り込まれて、高麗茶碗を勉強したい初学者から中級者まで広くお薦め致します。

 

書籍情報

タイトル
わかりやすい 高麗茶碗のはなし
著者
谷晃
出版社
淡交社
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図解 茶の湯人物案内

見かけによらず情報がぎっしり

茶の湯人物案内

タイトルを見ますと茶人紹介の本かと思いますが、紹介にとどまらず茶人の交友関係、所持茶道具の変遷、好みの茶道具や茶室といった広い範囲をカバーしています。

対象の茶人は、珠光、紹鴎から近代の松下幸之助、湯木貞一までで、茶人の生涯を繋ぐことでお茶の全体の歴史が分かります。

本文は、茶人の似顔絵やコミカルな四コママンガもあり、一見、初心者向けかと思ってしまいます。

ですが、決してそのようなことはなく、例えば次のような一つ一つ調べないと把握できない情報が整理されており、大いに勉強になります。

・珠光が所持していた投頭巾肩衝茶入や松花茶壺といった茶道具の変遷
・本能寺の変で罹災した茶道具
・信長が御茶湯御政道で下賜した茶道具
・利休百会記に登場する利休の掛物
・近衞予楽印の茶杓箪笥の内訳
・益田鈍翁の茶道具
・松下幸之助が寄贈した茶室

等々(他にも多数あります)

また交流関連は関連図、仕官先は日本地図、茶道具は手書きの図、というようにビジュアルに記述されていて、分かりやすいです。

作者の情熱が伝わる労作で、特に茶道検定を受験される方や、お茶の知識を深めたい方にお勧め致します。

 

書籍情報

タイトル
茶の湯人物案内
著者
八尾嘉男
出版社
淡交社
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和樂 2014年3月号「利休に学ぶ茶の湯の美学」

知る→始める→習う→さらに知るのフルコース

和樂 2014年3月号「利休に学ぶ茶の湯の美学」

だいたい年に一回はお茶の特集をする「和樂」(雑誌)で、今回は映画「利休にたずねよ」の上映と合わせたように「利休に学ぶ茶の湯の美学」ということで、利休居士を中心とした内容です。

最初に「ここが変わった!利休さんの「茶の湯」革命、ビフォー&アフター」で、
利休居士の前後でのお茶の変化を写真やイラストで次のように対比し、
  茶室:書院→小間
  茶碗:唐物→樂
  点前:台子点前→平点前

さらに「茶道具こそ、わび茶の醍醐味!」
利休好みの茶道具を唐物・見立て・オリジナルに分類して分かりやすく解説することにより、利休居士のお茶の知識を得ることができます。

次に、「意外と簡単!さあ、わび茶を始めてみましょう!」では、
自分でお茶を点てる方法を、「裏千家「初心者のための茶道教室」誌上体験入門」で習い始める方法を説明しています。

そして最後に「利休の美に触れる「茶の湯」美術館ガイド」
「漫画『千利休』は最高の茶の湯の”入門書”です」で、お茶に関する知識をさらに深める方法を解説しています。
漫画「千利休」に着目するのは、他にはない新しい観点だと思います。

このように、今回の特集は、お茶の
「知る」→「始める」→「習う」→「さらに知る」
といったフルコースを紹介しています。

また、別冊付録の「ニッポンの名茶碗50 原寸大図鑑」は、唐物・高麗・和物・樂に分類して、曜変天目・有楽井戸・卯花墻・無一物・不二山といった素晴らしいお茶碗をカラーの原寸大写真でまとめたもので、こちらも大変価値があるものです。本誌の特集と別冊、いずれもお勧め致します。

 

書籍情報

タイトル
和樂 2014年3月号「利休に学ぶ茶の湯の美学」
著者
和樂編集部
出版社
小学館
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父、小堀宗慶の背中

家元が受け継ぐもの

父、小堀宗慶の背中

遠州流家元の小堀宗実氏(昭和31(1956)-)が家元になるまでの修行の様子や、前家元の宗慶宗匠(大正12(1923)-平成23(2011))からのさまざまな教えが書かれています。

宗実氏が宗慶宗匠から言われた「家元はなんでも出来ないといけない」という言葉が印象に残りました。

流祖の小堀遠州(1579-1647)は、「日本のレオナルド・ダビンチ」と呼ばれることもあるほどの、茶道具の目利きを始め、書、歌、作庭・・とオールマイティな武家茶人でした。

また宗慶宗匠も、書、歌、日本画、茶花、裂地、お香、茶道具の目利きや見立てと各分野において一流で「現代の遠州」と呼ばれることもある大茶人でした。

この宗慶宗匠の後継ということで、さぞや宗実氏は大きなプレッシャーが掛かったことと思いますが、お茶や書にしても「ひたすら練習する」「ひたすら稽古する」ことで前に進んできたということで、真面目で誠実な人柄を感じました。

それと宗慶宗匠は、宗実氏に、ある日ぽんと茶会の相伴(半東)役や稽古場の花を入れるといった新しい役を任せることで、成長を促していたようです。

家元を譲るということもある日突然言い渡したということで、見方を変えれば、先輩が後輩を、上司が部下を育てる場合にもあてはまるのではと思いました。

後半は宗慶宗匠とのお茶にまつわる話です。宗実氏が求めたお茶碗やお銚子といった茶道具を宗慶宗匠が先に茶会で使ってしまうとか、年初に削る御題に因んだ茶杓についての宗慶宗匠とのやりとり等を面白く読むことができました。

宗慶宗匠や宗実家元をご存じの方はもちろん、どのように家元になるのかご興味のある方にお勧め致します。またお茶だけでなくどのように家業や仕事を引き継ぐのか一つの事例を知りたい方にもお勧めです。

 

書籍情報

タイトル
父、小堀宗慶の背中
著者
小堀宗実
出版社
角川マガジンズ
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千家分流

千家の源流-三千家誕生まで

千家分流
この本は、「千家奔流」の続編で、千利休のひ孫により、三千家が誕生するまでが書かれています。
 
 
千利休の孫の宗旦には、四人の男子がいて、
  次男 宗守・・武者小路千家祖
  三男 宗左・・表千家祖
  四男 宗室・・裏千家祖
と三千家を興しました。
 
 
長男宗拙は、一家を構えるに至りませんでした。
 
 
<三部作>
「千家再興」-少庵召し出しまで
「千家奔流」-宗旦の生涯
「千家分流」-三千家誕生まで

 

書籍情報

タイトル
千家分流
著者
井ノ部康之
出版社
読売新聞社
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千家奔流

千家の源流-宗旦の生涯

千家奔流

この本は、「千家再興」の続編で、千利休の孫である宗旦の生涯が書かれています。

大徳寺三玄院の喝食(かつじき・見習い僧)である宗旦のもとに利休切腹の知らせが届くところから始まります。

このとき宗旦は十四歳でした。

その後、三千家の礎となる三人の息子を独立させ、八十歳で亡くなるまでで、この本も一気に読むことができます。

茶人の気風を表した、次の有名な落書が取り上げられていました。

 「織部は理屈、綺麗さびは遠州で、乞食宗旦、姫宗和」
 
<三部作>
「千家再興」-少庵召し出しまで
「千家奔流」-宗旦の生涯
「千家分流」-三千家誕生まで

 

書籍情報

タイトル
千家奔流
著者
井ノ部康之
出版社
読売新聞社
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千家再興

千家の源流-少庵召し出しまで

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この小説は三部作で、千利休の切腹から三千家が興るまでが、生き生きと描かれています。

一冊目は、利休の息子の千少庵が主人公で、利休と秀吉の確執から、利休の切腹、少庵の追放、そして秀吉に赦されての少庵の復帰までが書かれています。

読みやすく、ついストーリーに引き込まれて、一気に読み終わってしまいます。

千家の起源と少庵について勉強されたい方にお勧め致します。

※2012年2月に文庫本として再出版されました。
残念ながら現在のところ続編の「千家奔流」と「千家分流」は未だ文庫化されていないです。
 
 
<三部作>
「千家再興」-少庵召し出しまで
「千家奔流」-宗旦の生涯
「千家分流」-三千家誕生まで

 

書籍情報

タイトル
千家再興
著者
井ノ部康之
出版社
単行本:読売新聞社 文庫版:中央公論社
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Amazonでこの本を見る(単行本)  文庫版

利休の風景

傑作生み出す発想の原点

利休の風景

直木賞受賞作で映画化もされた「利休にたずねよ」の作者である山本兼一氏の、利休居士を中心としたお茶に関するエッセーです。

山本氏は利休居士の小説を執筆していますので、お茶や桃山時代について調べているとは想像していましたが、子供の頃からお茶に縁があったと本書で初めて知りました。

それは、山本氏のご両親が大徳寺の聚光院で下宿した縁から、子供の頃にご両親とたびたび聚光院に訪れ、利休居士の話を聞かされ、それが四十年以上を経て「利休にたずねよ」の構想に結びついたとのことです。

また感心しましたのは、山本氏が利休居士やお茶に対して独自の解釈をしていることです。

例えば次のような意見です。

  • 利休居士はレトリック(修辞)を操り言葉のマジックで新しい美的価値を創造した竹の花入の「園城寺」のようにに見立てたものに名前をつけ、後生まで伝世するようにした
  • 二畳の待庵のような狭い茶室は、俗世から切り離され、それ自体が完結した空間で人間のこころを包み込み、母の胎内にも似ている

利休居士やお茶を知識として扱うだけでなく、深い理解があってこそ、「利休にたずねよ」という傑作が生み出されたことと納得しました。

巻末には、樂家当主の樂吉左衞門氏との待庵での対談があり、樂氏と山本氏の解釈が展開され、こちらも興味深く読みました。

その中で、樂氏の「僕が本当に利休に出会ったと思えるのは、この待庵に来て坐ることと、あとは数碗の長次郎茶碗に出会うこと、かな。」という言葉が印象に残りました。

「利休にたずねよ」を読まれて作者の発想の原点を知りたい方にとどまらず、利休居士やお茶に対する新たな見方を知りたい方にもお勧め致します。

 

書籍情報

タイトル
利休の風景
著者
山本 兼一
出版社
淡交社
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流派の茶箱

茶箱の鑑賞と点前

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以前の記事「持ち運ぶ楽しみ」でご紹介しました本「茶の箱」と違い、、こちらは流派(裏千家)の茶箱とその点前についての本です。

他の流派と比べて、(たぶん)点前の種類の多い裏千家は、茶箱も、卯の花・雪・月・花・和敬・色紙と六種類もお点前があります。

季節を織り込みにくい茶箱の点前は、先生によってお稽古をする機会が少ない場合があり、しかも平点前と異なる所作も多いため、なかなか覚えられないです。

少ない機会の茶箱点前のときに役立つ本です。

 

書籍情報

タイトル
茶箱の鑑賞と点前―裏千家茶道
著者
千宗室
出版社
淡交社
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