いちわん

~ 楽在一碗中 ~
展覧会

尾形光琳没後三百年記念 光琳とその後継者たち(畠山記念館)

三百年の兄弟の合作

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畠山記念館にて「尾形光琳没後三百年記念 光琳とその後継者たち」を拝見して参りました。

今年は尾形光琳(1658-1716年)の没後三百年にあたり、弟の尾形乾山(1663-1743年)やその後継者たちの作品を展示しておりました。

展示室に入りますと、光琳と乾山の作品のためかいつになく華やかな雰囲気です。

まず目に入りますのが、乾山の色絵藤透鉢です。文様に合わせて器を透かしています。これは光琳がやきものを作り、乾山が絵付け行った兄弟の合作でこの展覧会でもたびたび登場します。

◆一つ目の展示ケースは、次の作品が並びます。
・瀬戸茶入 銘「常盤」・・瓢のようにくびれた形で、遠州の書付で「常盤なる松のみどりの春くればいまひとしほの色増さりけり」との歌が添っています。また後西院の添状も展示されていました。
・茶杓 銘「萬歳」 土岐二三作
・和歌懐紙 近衛家煕筆
 
どういう取り合わせかなと考えてみましたら、生没年が土岐二三:1638?-1732年、近衛家煕:1667-1736年と光琳・乾山と同時代であることが分かり、もしかしたらお茶会等で皆さん歓談したかも知れません。
 
 
◆二つ目のケースは、光琳・乾山揃い踏みです。
・結鉾香合 乾山作
・黒楽茶碗 銘「武蔵野」 乾山作
・銹絵染付笹文茶碗 乾山作
・茶杓 銘「寿」 光琳作
・銹絵松図茶器 乾山作
・色絵菊文竹節蓋置 乾山作
・色絵絵替り土器皿

 
ここであれは・・と思いましたのが、乾山の楽茶碗です。あのカセた肌は樂家五代宗入(1664-1716年)のお茶碗、例えば「亀毛」にによく似ていると気がつきました。

乾山・光琳は宗入の従兄にあたり、薬掛けや窯焼きのときに宗入に手伝ってもらったのでは、と想像しました。乾山の楽茶碗は華やかではなく侘びた風情であらたな発見でした。

一番奥には四季花木屏風があり、とても華やかで、菊は置上を使って立体的に際だたせていたのが印象的でした。

軸は、光琳・乾山、酒井抱一、俵屋宗達らの華やかな作品、ユーモラスな作品、墨絵のわびた作品などを拝見できました。
 
 

●展覧会情報

尾形光琳没後三百年記念 光琳とその後継者たち
畠山記念館(東京都港区)

2016年4月12日~2016年6月12日
http://www.ebara.co.jp/csr/hatakeyama/

やきもの百花繚乱-宗旦・宗和・遠州とその時代-(湯木美術館)

三茶人とやきもの

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湯木美術館にて「やきもの百花繚乱 -宗旦・宗和・遠州とその時代-」を拝見してまいりました。

今回は、千宗旦(1578-1658年)、金森宗和(1584-1656年)、小堀遠州(1579ー1647年)の同時代に生きた三茶人が好んだやきものの展覧会です。

侘び茶に徹した宗旦は現代まで続く三千家の礎を作りました。大名の嫡男でありながら早々に隠居し、公家風を茶の湯に取り込み、優雅な茶風で「姫宗和」と呼ばれました。

道具の箱にも好みがあり、盛り蓋で鹿皮の紐仕立ての優美な風情の「宗和箱」を考案しました。

遠州は大名茶人で、侘び茶に王朝趣味である和歌や文房具を取り入れ、「綺麗さび」と呼ばれました。

湯木貞一氏はこの三茶人に加え、遠州に憧れた松平不昧(1751-1818年)を好まれたようで、縁の茶道具を数多く所持しています。

展示室の入口近くに、数寄者・高橋灼庵が描いた志野茶碗「広沢」のユーモラスな画賛が掛かっていました。

◆侘び茶の宗旦に縁の道具です。
・赤茶碗「再来」 長次郎作・・宗旦が所持でやや大振りの継ぎのある茶碗です
・黒平茶碗 宗入作 ・・夏向きの平茶碗で涼しげです
・信楽鬼桶水指・・想像よりも遙かに大きく、これを点前座に置くのか驚きました
・浮御堂画賛 宗旦筆 ・・近江八景「堅田の落雁」で名高い琵琶湖畔の浮御堂がさらっと描かれています

◆姫宗和といわれた宗和好みの道具です。
・色絵扇流文茶碗 野々村仁清作・・口作りが少し歪んだ流水に流れる扇が美しいお茶碗です
・獅子撮砂金袋水指 野々村仁清作・・砂金袋の形で撮みが獅子の優美な形です。この水指の前で点前姿の湯木貞一氏の写真を見たことがあります
・赤平茶碗 宗和作・・宗和作のお茶碗は初めて拝見しました

◆綺麗さびの遠州に縁の道具です。
・膳所耳付茶入「五月雨」・・細長い鶴首形の茶器です。膳所焼は大津で作られ、遠州が指導したことで知られています。松平不昧所持で、和歌「山ひめのおるや衣の滝津瀬に くりいたす糸の五月雨のころ」が箱蓋裏に墨書されています
・高取水指・・高取焼も遠州が指導した窯の一つで遠州好みの前押しがされています
・古瀬戸十王口水指・・遠州から近衛家へ譲られた水指で釉薬がむらむらとしています。「十王」とは閻魔大王のことで、口の周りの輪を閻魔大王の冠に見立てたものです

この他にも、青井戸茶碗「春日野」が展示されていました。「春日野」は青味とびわ色が現れた井戸茶碗で、「瀬尾」(福岡市美術館蔵)、「竹屋」(個人蔵)と並ぶ「東都青井戸の三名品」の一つです。

さらに懐石道具の向付として黄瀬戸、絵唐津、古染付、上野割山椒、仁清水玉透も展示され、吉兆さんならではでした。

また今回展示された道具(青井戸「春日野」、鬼桶水指、獅子撮砂金袋水指)を中心とした取り合わせが写真で紹介されており、どれも素晴らしく、実際に拝見したいと強く思いました。

 
 

●展覧会情報

やきもの百花繚乱 -宗旦・宗和・遠州とその時代-
湯木美術館(大阪市中央区)
2016年4月1日~2016年6月26日
http://www.yuki-museum.or.jp/

北大路魯山人の美 和食の天才(三井記念美術館)

天上天下自由自在

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三井記念美術館にて「北大路魯山人の美 和食の天才」展を拝見して参りました。

北大路魯山人(1883-1959)は、書、篆刻、陶芸、漆芸・・とさまざまな工芸に才能を発揮し、さらに美食家としても有名です。

今回は、陶磁器を中心に書や絵画、漆器など魯山人が手掛けた独創的な作品を紹介しています。

入りますと、「青織部籠形花器」と「志野若草文四方平向」が出迎えてくれます。

前者は織部釉で後者は志野で色や質感は桃山陶磁を思わせるものです。ところが形は籠で編んだような花入、平たい向付と桃山時代にはないもので、それぞれ特徴を捉えて別の形にしています。

そう気がつきますと、金襴手や織部、志野、染付と時代のものに倣っていながら、デザインや大きさは魯山人独自のものが多く、しかも使いやすそうで、魯山人に凄さを改めて実感しました。

心に残りました主な作品は次のとおりです。

金襴手壺・・金襴手の茶碗や鉢は多くありまして、これは壺の全面が金襴手という華やかなものです

銀三彩輪花透鉢・・銀彩の上に黄・緑の色を置いていて、古というよりも現代アートのようです。備前や信楽の焼き損じたものを割ってしまうのではなく、銀彩を施してさらに焼くという独自の方法で生み出されました。

織部蟹絵平鉢・・蟹の絵の作品は他にも何点かあり、美食家の魯山人は蟹好きではと想像しました。

織部誰ヶ袖向付・・今回の作品群の中で大きさもほどよく折敷にぴったりと収まりそうです。桃山にありそうでないデザインです。

色絵金彩龍田川向付・・一見乾山作かなと思いますが、色変わりしているところは魯山人のオリジナルです。

織部長板鉢・・雰囲気は桃山の織部ですが長板は魯山人の発案で料理を盛ってみたくなります。

一閑塗日月椀・・金(日)と銀(月)の丸い箔を交互に貼り付けている有名な椀で、江戸時代にありそうですが、実は魯山人オリジナルのモダンなデザインです。戦時中に火が使えない状況になって陶器を焼くことができず漆器制作を行ったということです。

長閑塗瓢文椀・・黒塗の椀に朱で瓢をざっくりと描いています。長閑とは江戸時代末期の京都の塗師、佐野長寛(1791-1863年)に因んだもので、常に新意匠を試みたと伝えられ、現代にも様々なデザインが伝わっています。

雲錦鉢・・乾山や道八も作っています桜(雲)と紅葉(錦)文様の鉢です。ただしサイズはだいぶ大きく、金彩も施しています。

赤絵汁次・・大振りな作品が多い中で愛らしい一品です。

料理盛付帖・・鉢の使い方をスケッチしたもので、果物、料理、菓子、刺花、盛肉と一器多様の使い方が描かれて、わくわく楽しくなりました。

信楽灰被大壺・・口を欠いて焼き上げていました。

鉄製透置行燈・・鉄でできた行灯で、ここまでデザインしていたかと驚きました。

今回は、懐石道具以外のお茶道具は展示されておらず、少し物足りないと思ったものの、ほとんどが食に関する器で、今までの魯山人展より身近に感じられました。

書や絵画や絵付けは魯山人自身が行ったものの、陶磁器焼いたり木を挽いて漆を塗るのは職人に任したと思われます。

元のデザインを考えた魯山人の美的センスは抜群で、美を自由自在に扱っていると感じます。

さらに加えて多くの人を巻き込み作品を作り上げたプロデュース力は強力で、この両者を兼ね備えた芸術家はなかなかおらず、近現代では比肩する人はおらず、本阿弥光悦以来ではないかと思います。
 
 

●展覧会情報

北大路魯山人の美 和食の天才
三井記念美術館(東京都中央区)
2016年4月12日~2016年6月26日
http://www.mitsui-museum.jp/index.html

釜のかたち PART II(大西清右衛門美術館)

自由闊達なかたち(続)

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大西清右衛門美術館にて、「釜のかたち PARTⅡ」を拝見してまいりました。これは前回展覧会の「釜のかたち PARTⅠ」の続編で、さらなるバリエーションの茶釜が登場致します。

今回惹かれました作品は次のとおりです。

・車軸釜:二代浄清作、六代浄元作
  ・・名前はどちらも車軸釜ですが、浄清は腰の下が大きく張り出しており、浄元は腰のみが張り出していると形が異なります。浄元は浄清の車軸釜を知っていた可能性もあり、元にした「車軸」を変えたのではと想像できます。

・傘釜:初代浄林作
  ・・表面につぶつぶがあるように見えます。展示解説には、「(このつぶつぶである)まだら文様は笠にうちかかる雨の滴と見えるようである。鋳上がった釜を真っ赤に焼いて酸化皮膜をはがして作った」とありました。さらに大西家の軍配扇の紋のついた古い笠も展示されていました。

・播知釜:天明
  ・・土井宗雅が天明8年に龍光院で拝見したとの記録があり、使った日付や場所が分かる珍しい釜です。

・切子釜:西村道也作
  ・・切り子細工からヒントを得たようで、三角形を組み合わせて立体の釜を構成しています。そのシャープさから現代アートのようです。

・二口釜:十代浄雪作
  ・・釜の口が二つあり、中も二つに区切られている大変珍しい釜でこれ以外拝見したことがありません。二つの種類の水を入れて味わったり、片側を蒸し器にしたりしたそうです。実際、美術館のお茶会で片側でじょうよまんじゅうを蒸して席中に出し、大好評でした。

・蓬莱山釜:西村道仁作
  ・・中国の想像上の山である蓬莱山を象り、興味深いのは蓋を挟んで穴が開いている山の頂上が二つあり、お湯を沸かすとこの頂上(噴火口?)から湯気が出てきます。茶席で使われていることを想像しますと、皆さまの驚きの声と歓声が聞こえるようです。注文主からの依頼でしょうがどのような発想でしょうか。
 
 
また釜だけでなく、清巌宗謂(1588-1661年)筆「鉄槌舞春風」も展示されていました。鉄の槌が風に舞うとは、何となくユーモラスな情景です。もしかしましたら清巌宗謂は同時代の初代浄林(1590-1663年)や二代浄清(1594-1682年)のために筆をとったのかも知れません。

 
 

●展覧会情報

釜のかたち PART II
大西清右衛門美術館(京都市中京区)
2016年3月12日~2016年6月26日
http://www.seiwemon-museum.com/

樂歴代 長次郎と14人の吉左衞門 (樂美術館)

次の、15人目の吉左衞門へ

樂歴代 長次郎と14人の吉左衞門 (樂美術館)

樂美術館にて、「樂歴代 長次郎と14人の吉左衞門」展を拝見して参りました。

樂家では長次郎の次の常慶から代々「吉左衞門」を名乗り、当代が14人目にあたります。吉左衞門はそれぞれの時代を生き、決して踏襲することなく、それぞれが己の世界を築き上げてきました。今回は、代々の特徴が色濃く表れている作品が展示されていると感じました。

一階の正面に、意外にも茶碗ではなく、黒樂茶碗を焼くための内窯が展示されていました。黒樂茶碗は窯の内側にある内窯に一碗入れて蓋をし、周りに炭を詰めてフイゴでを風を送り温度を上げて焼き上げます。

一碗焼くと取り出して次の一碗を内窯に入れて焼きます。「その瞬間その瞬間たった一碗のためだけに炎を燃やすという独特な焼き方」です。

一階は樂歴代が並んでいました。今回の最後は樂篤人氏の黒樂茶碗で、出品目録には「惣吉・次期十六代」とあり、世代交代の準備は進んでいると実感しました。

歴代の作品は、次のように作者の特徴が際立ったものでした。

・のんこう黒樂「残雪」・・蛇蝎釉
・一入黒樂「暁天」・・朱薬
・宗入赤樂・・明るい釉調
・了入白樂筒・・篦目が強く白樂
・吉左衞門赤樂「月波」・・ざっくざっくと篦で切り落としたような造形

二階は樂歴代の茶碗以外のさまざまな作品が展示されていました。主な作品は次のとおりです。この他にも香炉や懐石道具等がありました。

・茶入・・一入の茶入を初めて拝見しました。黒樂瓢形茶入「鼓滝」で雫が滴るような釉薬です
・利休座像・・旦入の座像で樂家の仏壇に置いてあるもので、見事な造形です
・花入・・左入の香炉釉立鼓花入がシャープなフォルムでした。
・水指・・覚入の焼貫烏帽子形四方水指で、美術館のお茶会でも拝見したことがあります。最初に見たときは、焼貫なのでご当代が作られたのではと思いました。

三階は次の樂茶碗が並んでいました。いずれも名品と言えます。
特に亀毛の腰の張ったなんともいえないプロポーションは、形は異なりますが、光悦の「乙御前」を思い出して、手にしてみたくなります。

・長次郎黒樂「面影」
・常慶黒樂「黒木」
・のんこう赤樂筒「山人」
・宗入黒樂「亀毛」
・吉左衞門焼貫黒「女媧」

今回は、樂ご当代が跡を継ぐ篤人氏に、樂歴代の特徴、樂のさまざまな作品、樂茶碗の名品を示し、ここから何かを感じ取ってほしいのではと想像できる展覧会でした。

千家十職のイベントで何年か一度、「十備会」という展覧会があり、職方が新しい作品を展示します。三年ぶりの今回(2016年)は、三家(黒田家、土田家、吉村家)で代替わりがあり、もしかしたら樂家もその時期が近づいてきたのかも知れません。

●展覧会情報

樂歴代 長次郎と14人の吉左衞門
樂美術館(京都市上京区)
2016年3月12日~2016年6月26日
http://www.raku-yaki.or.jp/museum/

文様ことはじめ-茶道具の文様と意匠-(茶道資料館)

茶道具は文様をまとって

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茶道資料館にて「文様ことはじめ -茶道具の文様と意匠-」を拝見して参りました。

茶道具には様々な文様が施されています。文様は、茶事茶会では亭主がテーマを表現する手段の一つで、客側は亭主の意図を解き明かす糸口になります。文様の持つ意味を説くには幅広い知識が必要で、それだけに奥深く楽しみのつきない世界といえます。

展示は草花の文様から始まります。

<梅>
・利休梅蒔絵黒大棗、利休梅朱絵大棗 十二代中村宗哲作・・利休梅が金蒔絵と朱漆で描かれています

<桜>
・桜画賛 大綱宗彦賛、海北友徳画
・花筏蒔絵真塗手桶水指・・水に流れる桜の花びらを花筏と呼ぶのは素晴らしいセンスだと思います

<菊>
・桐木地菊置上香合 淡々斎在判・・木地に置上の白い菊がすっきりとした印象です
・色絵菊文茶碗・・野々村仁清作

<紅葉>
・小倉山蒔絵硯箱
・雲錦蒔絵折撓中棗・・桜を雲に紅葉を錦に見立てており、これも素晴らしい発想です

次は物語からの文様です。

<伊勢物語>
・蔦の細道蒔絵火入 円能斎好み・・静岡県宇津の谷越えの古道で伊勢物語に登場します
・富士絵菓子盆 円能斎直書・・富士を見ながらの東下りです

<源氏物語>
・現時物語絵貝桶・合貝

動物文様もたくさんありましてその一部です。空想の動物もいます。

・蝙蝠画賛「五福寿齢高」 淡々斎賛、平田斎画 ・・中国では蝙蝠を「福が来る」に通じるとして縁起がよいとしています
・亀香合 了入作
・牛香合 四代清水六兵衛作
・色絵紫鳳凰茶碗 十六代永樂善五郎作

有馬筆、一閑人、唐子と定番の文様です。

・古染付有馬筆香合
・染付一閑人水指 五代三浦竹泉作
・染付唐子水指 五代三浦竹泉作

ここまでシンプルになりますとデザインと言えそうです。

・銹絵染付七宝文茶器 淡々斎好み 久世久宝作

・色絵利休梅つぼつぼ波紋茶碗 十六代永樂善五郎作・・つぼつぼ文は三千家共通して好まれており、つぼつぼの置き方が三千家で異なります。

・雪輪香合 円能斎好、飴釉雪輪瓦 玄々斎好 慶入作・・雪の結晶をイメージしている雪輪も素敵なデザインです。雪→銀に繋がることから円能斎が銀婚式の折りに雪輪の道具を好み、またその年の許状には雪輪を施したとのことです。

 

付録 北村徳齋帛紗店

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茶道資料館から堀川通をはさんだ向かい側に、正徳二年(1712年)創業の茶道帛紗専門店の「北村徳齋 帛紗店」があります。

ここは看板を出しておらず、朱色の帛紗が入口に掛けられています。

お店に入りますと土間から上がって畳の部屋があり、ちゃぶ台が置かれています。

ここで探している帛紗の種類を告げますと見本を持ってきてもらえます。

特に古帛紗が種類が多く、積み上げられた帛紗から一枚ずつ拝見して選ぶことができます。

金襴、錦、緞子、紹紦、間道、風通、モール・・と本当に種類が豊富で楽しい反面迷ってしまいます。

また帛紗に関連して、数寄屋袋、帛紗挟み、志野袋も扱っていて、裂を選んで仕覆や、帯、草履等を注文することもできます。
 
北村徳齋帛紗店
http://kitamura-tokusai.jp/
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●展覧会情報

文様ことはじめ-茶道具の文様と意匠-
茶道資料館(京都市上京区)
2016年4月22日~2016年6月26日
http://www.urasenke.or.jp/textc/gallery/tenji/index.html

吉左衞門X 樂吉左衞門 樂篤人 樂雅臣 – 初めての、そして最後の親子展- (佐川美術館)

一期一会の親子競演、そして世代交代へ

佐川美術館

佐川美術館で「吉左衞門X 樂吉左衞門・樂篤人・樂雅臣 初めての、そして最後の親子展」を拝見して参りました。

国内では初めて篤人氏の作品がまとまって拝見できる機会です。

水指・茶入・茶碗を展示している樂吉左衞門館の最初のケースに、雅臣氏の石彫・吉左衞門氏と篤人氏の茶碗が展示されていました。吉左衞門氏は焼貫黒樂、篤人氏は黒樂平で、篤人氏の茶碗は吉左衞門氏に引けを取っていませんでした。

昼の航海の部屋には、雅臣氏の石彫が並びます。「輪廻」と名付けられた螺旋を中心に据えた作品です。

夜の航海の部屋には、篤人氏の茶碗が展示されています。

赤樂茶碗から拝見します。目を引くのは井戸形というか口が開いた朝顔のような三つの赤樂茶碗です。今までの樂茶碗では拝見したことがない形です。樂茶碗を使ってのアートとしての試みかも知れません。

他にたっぷりとした赤樂茶碗があり、フォルムは異なっていますが、吉左衞門氏を思わせる口作りでした。

黒樂茶碗は、朱薬が美しく、一入を思い出しました。勝手な思いこみですが、もしかしたら篤人氏は、吉左衞門氏をのんこうに自分は一入に見立てているかも知れません。篤人氏の茶碗からは吉左衞門氏とは異なるスタイルで作ろうしているように見受けられました。

最後に吉左衞門氏の黒樂焼貫茶碗が展示されていました。今までの箆痕の強い筒形でも光悦形の丸みをおびた茶碗でもなく、一見おとなしい正方形に近い筒形です。近づきますと表面がごつごつとした岩石のようです。

吉左衞門氏はこの茶碗を「巖石のような茶碗」と呼んでいます。現在も新しい手法にチャレンジしている吉左衞門氏に驚嘆します。

吉左衞門氏は、この親子展を「最後の親子展」とし、「たった一度出会いを結んで再び己の人生を歩み分かれて行く。それは初めてでそして最後の、一度限りの出会いです」と図録に書かれています。

篤人氏は次の吉左衞門となるべく「惣吉」を名乗り歩み始めています。

樂家の世代交代を感じさせる展覧会でした。

 

佐川美術館茶室

佐川美術館 樂吉左衞門館 茶室 外観

 

●展覧会情報

吉左衞門X 樂吉左衞門 樂篤人 樂雅臣 -初めての、そして最後の親子展-
佐川美術館(滋賀県守山市)
2016年4月16日~2016年8月28日
http://www.sagawa-artmuseum.or.jp/

常設展 茶の美術 2016年3月15日~6月5日(東京国立博物館)

トーハクの茶道具-隠れた実力

東京都美術館で「生誕三百年 若冲展」を拝見した後、同じ上野にあります東京国立博物館 本館4室 で、常設展「茶の美術」を拝見しました。

東博は所蔵している茶道具を定期的に展示替えしており、数寄者からの寄贈もあり、質が高いのではと思います。

今回は日本橋の古美術商の広田松繁(不孤斎)(1897-1973年)と「電力の鬼」こと松永安左エ門(耳庵)(1875-1971年)の茶道具を中心に展示され、主な作品は次のとおりです。

魚屋茶碗 銘 さわらび
すっきりした斗々屋茶碗で全体が灰色で見込が枇杷色をしています
さわらび

茶杓 古田織部作
蟻腰で折りタメの力強い茶杓です
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袋形水指
侘びた信楽の焼締めに華やかな赤絵の蓋が添っています
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志野草花文向付
筒形の向付で穏やかな釉調です
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※このエリアは写真撮影可能です。

前回この常設展(2013年5月21日~8月18日)を拝見した際のレビューはこちら

 

●展覧会情報

日本美術の流れ「茶の美術」
東京国立博物館(東京都台東区)
2016年3月15日~2016年6月5日
http://www.tnm.jp/

生誕三百年 若冲展(東京都美術館)

この世の楽園

生誕三百年 若冲展(東京都美術館)

東京都美術館にて「生誕三百年 若冲展」を拝見して参りました。

今回は、宮内庁三の丸尚館に所蔵している若冲の「動植綵絵」三十幅が近年東京で初めて一堂に展示されます。
(動植綵絵は、京都の相国寺では2007年に三十幅が展示されたことがあり、東京では三の丸尚蔵館で数点ずつ展示されたことがあります)

しかも今回はジョー・プライスコレクションも併せて展示されるという貴重な機会です。

伊藤若冲(1716-1800年)の作品の中で何といっても動植綵絵の技法の高さは抜群だと思います。近づいて見れば見るほどその緻密さと凄さが実感できます。しかも絹本の特徴を活かして裏面からも描いていると聞き驚きました。

対象はタイトルのとおり、鳥、獣、魚、虫、魚、貝・・の動物と松、牡丹、薔薇、梅・・の植物で、「山川草木悉皆成仏」という仏教の教えのように様々な生き物を描いています。

動植綵絵の三十幅は次のとおりです。

1.老松孔雀図
2.老松白鳳図
3.薔薇小禽図
4.牡丹小禽図
5.梅花皓月図
6.梅花小禽図
7.老松鸚鵡図
8.老松白鶏図
9.梅花群鶏図
10.棕櫚雄鶏図
11.向日葵雄鶏図
12.南天雄鶏図
13.芙蓉双鶏図
14.紫陽花双鶏図
15.群鶏図
16.大鶏雌雄図
17.芍薬群蝶図
18.秋塘群雀図
19.雪中鴛鴦図
20.雪中錦鶏図
21.芦鵞図
22.芦雁図
23.池辺群虫図
24.貝甲図
25.諸魚図
26.群魚図
27.蓮池遊魚図
28.菊花流水図
29.紅葉小禽図
30.桃花小禽図

拝見していて気がつきましたのは、若冲の絵は、超精密な部分と水墨画にあるようなざっくりとした描き方がほどよく混在しているということです。

例えば芦鵞図は鵞鳥を丁寧に細かく描き、背景の芦は墨絵でさっさっと描いています。

若冲の他の作品では、ジョー・プライスコレクションの「鳥獣花木図屏風」の升目で描くというユニークな発想に驚きました。

水墨画ももちろん多数あり、その中では「玄圃瑤華」という動植綵絵のように動物や植物を描いた、青裳堂から出版された版画本も展示されていました。若冲の本は初めて拝見しました。

●展覧会情報

生誕300年記念 若冲展
東京都美術館(東京都台東区)
2016年4月22日~2016年5月24日
http://www.tobikan.jp/index.html

頴川美術館の名品(渋谷区立松濤美術館)

住宅街の名品

頴川美術館の名品

渋谷区立松濤美術館にて「頴川美術館の名品」展を拝見して参りました。

松濤美術館は住宅街の一角にあり、白井晟一(1905-1983年)の設計により1981年に開館した美術館です。石造りのファサード、噴水のある地下二階から地上二階までの吹き抜けに橋が架かり、区立美術館と思えないようなモダンな作りです。

頴川美術館は、江戸時代から廻船業や山林業で成功した大阪の商家頴川家の四代目頴川徳助(1899ー1976年)が1973年に兵庫県西宮市に開館しました。東京でまとまって公開されるのは1984年以来という30年ぶりの貴重な展覧会です。

頴川美術館の名品

会場は二カ所に分かれ、地下一階の第一会場ではやまと絵、写生画といった掛軸や屏風が中心です。心に残りました作品は次のとおりです。

光忍上人絵伝断簡 鎌倉時代
そぼくな絵に惹かれます

春秋花鳥絵 土佐光起(1617-1691年) 江戸時代
緊迫や華やかな色遣いの大変豪華な屏風絵です

大原女図 英一蝶 江戸時代
拝見する機会があまりない英一蝶(1652-1724年)の絵で、一蝶らしい洒落た絵です

三保松原図 伝能阿弥(1397-1471年) 室町時代
元は屏風絵だった松原の広大なパノラマ図で、屏風の前に座りましたら、あたかも三保の松原で景色を拝見している気持ちになりそうです

二階の第二会場は工芸品から始まり、ここに今回の目玉である長次郎の無一物を含むお茶道具が展示されています。

魅了された作品は次のとおりで、いずれも独立ケースに展示され、ぐるりと周りから拝見できるという嬉しい配慮がなされています。

赤樂茶碗 銘無一物 長次郎(中興名物)
樂家初代長次郎(-1589年)の有名な赤樂茶碗です。
個人的には長次郎の赤樂茶碗では一番と思います。
きりっと端正な姿で透明釉がカセて実物を拝見すると「赤」というよりも肌色に近い色と感じます。
見込みは広く、手取りも本当に良さそうで、どなたかが「無一物を手にすると体と一体化するようだ」とお書きになっていて、その通りと思えます。
松平不昧公(1751-1818年)も所持されていました。

肩衝茶入 銘勢高(大名物)
織田信長(1534-1582年)の所持の折りに本能寺の変で焼け出された後、古田織部(1544-1615年)の所持となった経歴の茶入です。
間近で拝見すると火事で焼け焦げた様子が見てとれます。
名前のとおり背が高く、堂々とした茶入です。

芦屋松林図釜 (大名物) 鎌倉時代
霰に松林図が描かれた覆垂の小振りな釜です。
釜肌に時代を感じます。

茶杓 後西院作
折りタメで蟻腰の美しい茶杓です。拭き漆がしてあるようです。
後西院(1638-1685年)作の茶杓は初めて拝見しました。

無準師範筆 淋汗
大きな文字の堂々とした無準師範(1177-1249年)の書です。
淋汗とは汗を流す程度の軽いお風呂のことで、室町時代にお風呂の後に茶を喫するという「淋汗の茶」が流行りました。

頴川美術館にはお伺いしたことはないですが、写真と「文教地区にあり、小さくともキラリと光る美術館」というキャプションから、松濤美術館と雰囲気が似ているのではと想像し、あたかも頴川美術館にお伺いした思いで会場を後にしました。

頴川美術館の名品

●展覧会情報

頴川美術館の名品
渋谷区立松濤美術館(東京都渋谷区)
2016年4月5日~2016年5月15日
http://www.shoto-museum.jp/